売春宿の新戦力は、オランウータンとヤギ…奇妙で優しい世界

レビュー

7
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ヤギより上、猿より下

『ヤギより上、猿より下』

著者
平山 夢明 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163903330
発売日
2016/06/30
価格
1,000円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

売春宿の新戦力は、オランウータンとヤギ…奇妙で優しい世界

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 絶望に癒されることってあるんじゃないか。平山夢明の小説を読むと思う。主人公はみんな最低の状況に置かれていて、むごたらしい出来事ばかり起こるのに、末尾の一行にたどりつくころには不思議と晴れやかな気持ちになっているのだ。

『ヤギより上、猿より下』には、四編が収められている。小学生の男の子が家庭内暴力をふるう父親と無理心中をはかる母親から幼い妹を守ろうとする「パンちゃんとサンダル」、精神を病んだ老女と探偵ごっこをして食いつないでいる文無し野郎が家出した自分の娘を捜すことになる「婆(ババ)と輪舞曲(ロンド)」、殺し屋が標的になった煙草屋の亭主と接触するうちに衝撃の事実を知る「陽気な蝿は二度、蛆を踏む」。どの話も期待は裏切られ、善意は報われない。しかし、一切の希望がなくても生にしがみつかずにはいられない、人間の滑稽で美しい姿に魅せられてしまう。

 表題作の語り手は山の麓にある売春宿ホーカーズ・ネストで暮らす〈おかず〉と呼ばれる少女。ネストの主であるオバチャンに〈これなら火傷(やけど)の豚のほうがマシ〉と評される容貌のために家事を任されている。住み込みで働く三人の姐さん達はそれぞれ客を喜ばせるための得意技を持っているが、変わり者揃いの上に年齢も高く、稼ぎは減る一方だ。経営に行き詰まったオバチャンは、なんとオランウータンとヤギを新戦力として投入する。

 潰れかけの売春宿しか居場所のない人間が、さらに落ちぶれて〈ヤギより上、猿より下〉になる。悲惨な展開だが、おかずの素っ頓狂な語り口と動物の愛らしさ、姐さん達のぶっとんだキャラクターのおかげで読み心地は明るい。姐さんのひとりの禁じられた秘技〈マラカイボの灯台〉が炸裂する終盤には、ふきだしながら涙ぐんだ。

 こんなに奇妙で優しい世界には、物語のなかでも滅多にお目にかかれない。おすすめです、はあと。

新潮社 週刊新潮
2016年7月21日参院選増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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