日本で一番太っ腹「読売文学賞」、今年は――〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

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模範郷

『模範郷』

著者
Levy, Ian Hideo, 1950-
出版社
集英社
ISBN
9784087716528
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

日本で一番太っ腹な賞の今年の受賞者は

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 日本で一番太っ腹な賞、それが読売文学賞なんであります。小説、戯曲・シナリオ、随筆・紀行、評論・伝記、詩歌俳句、研究・翻訳の六部門が対象で、それぞれの受賞者には副賞として二百万円を贈呈。それを一九四九年の創設以来ずーっと続けてるんですから、素直に感服つかまつり候。

 新聞が読まれなくなっている昨今、財政上の都合で万が一でも賞の継続が難しくなった場合、クラウドファンディングを立ち上げてくれたら、不肖トヨザキ献金するにもやぶさかではございません。そのくらい、重要かつありがたい賞だと思っている次第です。

 小説部門に限りますと、これまでの受賞者は第一回の井伏鱒二を皮切りに、大岡昇平、三島由紀夫、安部公房、井上靖、河野多惠子、吉田健一、吉行淳之介、井上ひさし、大江健三郎、澁澤龍彥、色川武大、村上春樹、村上龍、筒井康隆、小川洋子、堀江敏幸、松浦理英子、髙村薫、多和田葉子、川上弘美、古川日出男など、小説好きなら合点承知之助の面々が揃っているわけですが、ここでもまた、わたくしが現存作家では五本の指に入ると確信している金井美恵子の名前を見つけることができません。

 えっと、金井さんって、何かしたんですか? 文学賞を受賞できないようなこと、しでかしたんですか? わたしが知っているのは、金井さんが、相手がどんな大物や人気者でも、おかしいと思えば批判の手をゆるめず、細やかな芸を尽くして笑いものにしてしまうエッセイの名手でもあるということですが。……もしかして煙たがられてるとか? だとしたらスモール・アスホール(ケツの穴が小さい)な人が多いんですねっ、文学賞界隈には。

 閑話休題。第六十八回にあたる今回、小説部門を受賞したのはリービ英雄の『模範郷』です。五十年前、少年時代を過ごした台湾の台中にあった家をめぐる私小説。〈大人になった自分の記憶の古層において、二重も三重もの意味で「自分の国」ではない島に、確実に「自分の家」があった〉その想いを、たかぶることのない静かな美しい文章で綴った表題作はじめ四編が収録されています。

新潮社 週刊新潮
2017年2月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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