K-POP 新感覚のメディア 金成ミン(キム・ソンミン)著
[レビュアー] 古家正亨
◆新時代の韓流 その強さは
[評]古家正亨(まさゆき)(帝塚山学院大客員教授)
ペ・ヨンジュン主演のドラマ「冬のソナタ」が日本で爆発的な人気を得て十五年。この間、日韓は様々な問題を抱えながらも、文化の一ジャンルとして「韓流」と呼ばれる韓国の大衆文化は日本で定着したといっていいだろう。この分野のイベントで司会をすることが多い私の仕事量は、各メディアが韓流に消極的になっていく中、増える一方だった。特にこの一、二年のK-POPの人気は特筆すべきものではないだろうか。
二〇〇九年から一一年にかけての「KARA」「少女時代」ブームを彷彿(ほうふつ)させる、日本人メンバー三人を擁する女性グループ「TWICE」の人気。今や世界的人気を誇り、米国ではビルボード一位も獲得した男性グループ「BTS」。これらを受け、あれだけ消極的だった日本のメディアでも「K-POPブーム、再び」の文字が躍る。そんな状況下で発売された本書は、日本経験も長い韓国人の著者が、研究者の立場から、K-POPと言われる韓国大衆音楽の歴史を紐解(ひもと)き“現象”としてのK-POP人気を多角的な視野から解説していく。
K-POPの強さは何か。解答を導き出すのは非常に難しい。それは戦略としての結果である一方、偶然の重なりから生まれたものでもあるからだ。そして、本書で記された日本でのK-POPの歩みをたどると、人気の背景には必ず社会システムとメディアの変化が見えてくる。
「韓流はもう終わった。K-POPなど誰が聞いているのか」。ネット上で轟(とどろ)くそんな声に、著者はネットが生んだ“情報の壁”を感じているのではないか。マスメディアが主たる情報源だった十五年前から、自分に必要な情報だけをネットを介し得る今。K-POP自体がメディアとして機能するようになり、それを介しない人々にとっては、日本におけるK-POP人気は幻想に過ぎないのかもしれない。平成という時代に始まった韓流。新しい時代を迎える今、熱狂する世界中のファンとは距離が縮まる一方で、日本ではよりパーソナルなものになっていくのだろうか。
(岩波新書・907円)
1976年ソウル生まれ。北海道大大学院准教授。共編著『東アジア観光学』など。
◆もう1冊
金成著『戦後韓国と日本文化-「倭色」禁止から「韓流」まで』(岩波現代全書)