テレワーク中に自宅勤務で転倒したらどうする?知っておきたい「労働法」基礎知識

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知らないと損する労働法の超基本

『知らないと損する労働法の超基本』

著者
石井 孝治 [著]
出版社
日本実業出版社
ジャンル
社会科学/法律
ISBN
9784534059345
発売日
2022/07/01
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

テレワーク中に自宅勤務で転倒したらどうする?知っておきたい「労働法」基礎知識

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

そもそも、それはどのようなものなのでしょうか? この疑問について、社会保険労務士である『知らないと損する労働法の超基本』(石井孝治 著、日本実業出版社)の著者は以下のように説明しています。

「労働法」というのは、労働基準法、労働安全衛生法、労働組合法、労働関係調整法、労働契約法、労働者派遣法、最低賃金法、男女雇用機会均等法等、数ある労働関係の法律の総称です。(「はじめに」より)

そうした数ある労働関係の法律のなかから、「知らないと損する」、逆に「知っておくと得をする」ことがある内容に絞って取り上げているのが本書。加えて注目すべきは、最近の働き方のトピックとして取り上げられることの多い、「仕事と家庭の両立」「副業・兼業」「テレワーク」などについても触れている点です。

つまりは労働関係の法律に関する、さまざまな疑問に答えてくれるのです。きょうは第7章「新しい働き方の行方 〜働き方改革の疑問を解決しよう!〜」内の「テレワークの疑問」に焦点を当ててみたいと思います。

テレワーク時の労働管理

コロナ禍での新しい働き方を模索する過程において、テレワークが注目されるようになりました。時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であるだけに、多様な人材を確保するという観点からも有効な手段だといえます。

もちろん飲食業界など、テレワークが難しい現場もあるでしょう。しかし今後は、管理部門や営業部門を中心にますます導入が進んでいくだろうと著者は予測しています。

とはいえ、いろいろな課題があることもまた事実。たとえば会社の視点だと、労働時間の管理の難しさが挙げられます。一方、労働者側からの視点に立ってみれば、仕事とそれ以外の時間との切り分けの難しさ、あるいは長時間労働になりやすいなどの問題が出てくるわけです。

つまり重要なのは、労働時間管理をどうするかということ。テレワークを行う場合も、会社は労働時間を適正に把握する責任があります。したがって、厚生労働省の『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』に基づいて、適切に労働管理を行うことが求められるのです。

ちなみにガイドラインのおもなポイントは次のとおり。

【労働時間の考え方】

◇労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間にあたる

◇例えば、参加することが業務上義務づけられている研修。教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間に該当する(83ページより)

このガイドラインでは、労働時間を記録する原則的な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録による方法などが挙げられています。ただし、やむを得ず自己申告制によって労働時間の把握を行う場合も、ガイドラインを踏まえた措置をとる必要があるとされているそうです。

テレワークの際の労働時間管理のルールを、きちんと決めてから運用する必要があるということ。しかしテレワークは会社から離れた場所での勤務なので、目が行き届かないこともあってなかなか難しいことも多いようです。(251ページより)

休憩時間の取り扱い

テレワークに関して気になることのひとつが休憩時間。労働基準法では原則として休憩時間は労働者に一斉に付与することになっているものの、テレワークを行う労働者については、労働協定により、一斉付与の原則を適用除外することは可能。

自由に休憩がとれるということなのでしょうが、テレワーク中に中抜けした場合はどのような扱いになるのでしょうか?

著者によれば、「中抜け時間について、会社が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合は、その開始と終了の時間を報告させて休憩時間として扱い、労働者のニーズに応じ、始業時刻を繰り上げたり就業時刻を繰り下げることが可能」なのだそう。または、休憩時間ではなく時間単位の年次有給休暇として取り扱うこともできるのだといいます。

テレワークの性質上、通勤時間や出張中の移動時間にノートパソコンやタブレットを用いて業務を行うことが可能ですが、これらの時間について、会社の明示または黙示の指揮命令下で行われるものについては労働時間に該当します。

また、午前中だけ自宅やサテライトオフィスで勤務をしたのち、午後からオフィスに出勤するというように、勤務時間の一部でテレワークを行う場合があります。

こうした場合に就業場所間の移動時間が労働時間に該当するのか否かについては、会社の指揮命令下に置かれている時間であるか否か(=自由利用が保障されているか否か)により、個別に判断されることになります。(258ページより)

判断に困るようなケースも少なくないだけに、労使間で行き違いが起こりそう。だからこそ中抜け時間や部分的テレワークの移動時間の取り扱いについては、会社と労働者との間で合意形成をしておく必要があるのです。(256ページより)

テレワーク中に自宅でケガをしたら

テレワークを行う労働者が災害にあった場合も、通常の勤務者と同じく、労働基準法に基づいて会社が労働災害に対する保障責任を負うことに。そのため、業務上の災害として労災保険給付の対象となるそうです。ただし、私的行為などの業務以外が原因の災害については、業務上の災害とは認められないので注意が必要。

テレワークで労災が認定されたケースとして、自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていて、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案があります。

これは、業務行為に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的行為によるものとも認められないため、業務上の災害と認められるということです。(260ページより)

個別の判断は所轄の労働基準監督署が行うので心配はなし。また、通勤災害とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所の往復などを合理的な経路及び方法で行うことなどによって被った負傷などをさすそう。

労働者の属するメインのオフィス以外に設けられたサテライトオフィスでの勤務や、ノートパソコンや携帯電話などを活用して臨機応変に選択した場所で業務を行うモバイル勤務では、通勤災害が認められる場合も考えられるようです。(259ページより)

労働法は難しいと思っている人にも無理なく読めるようにと、本文がストーリー仕立てになっているところも本書の魅力のひとつ。働くうえで知っておきたいことを無理なく学ぶために、利用価値は大きそうです。

Source: 日本実業出版社

メディアジーン lifehacker
2022年8月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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