須賀敦子、長谷川四郎、島尾敏雄…。デビュー作のマルグリット・ユルスナール論に始まり、著者が私淑する作家たちのテキストに思いをはせた散文集。通底するのは「本質に触れそうで触れない漸近線への憧憬を失わない書き手」に抱く親密さやあこがれか。
メランコリックな記憶の情景を描くノーベル賞作家パトリック・モディアノを巡る章では「思い出は宝石箱の宝石のように、時間のなかにしまわれているわけではない」とし、その淡彩な作風に潜む意外な濃密さを指摘している。やわらかく彩り豊かな言葉と鋭い批評眼の調和が心地よい。(講談社文芸文庫・1925円)
-
2022年11月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです