市場価値は高い!「ひとりマーケター」がいま自信を持って働くためのアドバイス
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『ひとりマーケター 成果を出す仕事術』(大澤心咲 著、マイナビ出版)の著者によれば、B to Bマーケティング担当者のなかに「ひとりマーケター」「ぼっちマーケター」と呼ばれる人たちがいるのだとか。
その定義は、マーケティング担当は自分ひとり、上司は代表取締役や部長など他組織のマネジメントをしている人で、実務的な専任は自分だけというものです。中小企業だけではなく、大手企業でも事業部にひとりしかマーケティング担当者がいないケースもあります。チームメイトはいないし、上司は他チームの人が兼任しているとなれば実質ひとりマーケターと呼べます。(「はじめに」より)
だとすれば、ひとりマーケターは次のような悩みを抱えることにもなるはず。
・施策を相談できる人がいない
・成果が上がらない
・評価されにくい
・先輩がいないのでキャリアプランを想像しにくい
(「はじめに」より)
結果として成果が上がりにくく、マーケター自身も成果を出せないまま異動になってしまったりすることもあるそう。しかも、ひとりマーケターが間違いなく存在するにもかかわらず、世の中には彼ら向けに特化した書籍がなかったのも事実。だからこそ本書が書かれたというわけです。
マーケティングの「べき論」や「理想論」は極力減らし、著者自身が「ひとりマーケター」として考えていたこと、実践していたことを記載したのだといいます。
そんな本書のなかから、9章「ひとりマーケターの価値」に注目してみましょう。
ひとりマーケターの市場価値は高い
著者はここで、「グリット」(やり抜く力)研究の第一人者として知られるペンシルベニア大学心理学部教授、アンジェラ・リー・ダックワース氏がTEDで行った「Grit: The power of passion and perseverance」というスピーチの一節を引用しています。
シカゴの公立学校で数年前にやり抜く力の研究を始めました。何千人もの高校2年生にやり抜く力に関するアンケートを行い、1年間以上待って誰が卒業するかを観察しました。
結果、やり抜く力が高い方がより卒業にたどり着いていました。とくに落第ギリギリの生徒にとって重要でした。(242ページより)
著者がこの一節を引用したのは、ひとりマーケターも落第ギリギリの学生と似た状況だから。当然ながら、結果が出なければ簡単にチームは解体されることになるでしょう。「もうダメかもしれない」「ほかの人たちみたいにうまくやれない」という状況だからこそ、やり切る力を試されているというわけです。(242ページより)
応援団を増やせば成果につながる
ひとりマーケターとして働いている方に著者が伝えたいのは、「結果を焦らないで。結果が出るまでに2〜3年はかかる」ということなのだそうです。
ひとりマーケターの前例がないB to B組織でマーケティングチームを立ち上げ軌道に乗せるのは、レースで勝ったことがない馬を、これから勝てる馬に育てていくようなもの。勝ち方もわからない、得意な距離もわからない、ダートと芝のどちらが得意なのか、障害物走が得意なのかもわからないわけです。
それどころか、果たして勝てるポテンシャルがあるのかもわからないのです。しかしそれでも、勝たせるために信じて試行錯誤するしかないということ。
そこで、ひとりマーケターにとって重要な意味を持つのが上司との関係性の構築。無理に顔色を伺う必要こそないものの、チームメイトもいないひとりマーケターにとっては、上司こそが正直に相談したり頼ったりできる存在だからです。
いろんな考え方がありますが、私は上司とは自分を育ててくれる人というよりも
「自分が成果を出すために、情報をくれ、自分がアプローチできない先への根回しを代わりにやってくれる立場の人。ただし上司も人間なので、気持ちよく私に協力できるように、私が考えてコミュニケーションをとる必要がある」
と思っています。(249ページより)
そう考えて接すれば、過剰に上司に期待しすぎることはなく、マーケティング領域を担当するのが初めての上司であったとしても、適切に連携がとれるというのです。
環境が整っていなければ、どれだけ効果的な施策を思いついたとしても、上司に顧客ヒアリングをしたいと訴えても、それが実現されることはないはず。
そこで、適切な施策をスムーズに実行し、成果を出すために、まずは勇気を出して上司との関係構築を進めるべきなのだと著者はいいます。関係構築を実施しながら、具体的な施策を考えていけばいいわけです。(248ページより)
大切なのは自信を持つこと
ひとりマーケターをしていると、「この施策で成果が出るのかな」「SNSでは、こういう試作が話題になっているみたいだ」というように情報を集めれば集めるだけ、不安になっていくかもしれません。
そんなあなたに伝えたいのは、とにかく自信を持って欲しい、ということです。それは、成果が出る施策をわかっていることやマーケティング知識があることへの自信ではありません。あなたが、あなたの会社で、一番お問合せ数を増やす方法を考えているし、悩んでいるし、そのために動いている自信です。(249ページより)
世の中にマーケティングに詳しい人はたくさんいますが、自社のマーケティング施策について誰よりも考えているのはひとりマーケター。それは事実なのだから、とにかく自信を持つべきだということです。少なくとも、自分よりも考えていない人の意見に惑わされる必要はないのです。
貴重な意見として参考にすれば良いだけで、最終的にどうするかの判断は、あなたの判断が一番正しいです。
なぜなら、一番考えているのがあなただからです。これはまぎれもない事実だと思いますし、もし一番考えている自信がなければ、今日から一番考える人になりましょう。(250ページより)
これは、ひとりマーケターを勇気づけてくれる貴重なメッセージだといえるのではないでしょうか?(249ページより)
著者は、ひとりぼっちでマーケティング担当になり、高い目標を追いかけている方、意気込んでいるものの具体的な相談ができる相手がいなくて困っている方に、ひとりひとり話しかけていくつもりで本書を著したのだそう。そのため、ひとりマーケターとして悩んでいる方の大きな力になってくれそうです。
Source: マイナビ出版