光速を超えた情報伝達!? 特殊相対性理論に反する「量子もつれ」の謎へ至る科学の歴史に迫る一冊 哲学者・小川仁志が紹介

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シンクロニシティ

『シンクロニシティ』

著者
ポール・ハルパーン [著]/権田敦司 [訳]
出版社
あさ出版
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784866674292
発売日
2023/01/26
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

世界の謎を解く科学と非科学のシンクロ

[レビュアー] 小川仁志(哲学者、山口大学国際総合科学部教授 博士(人間文化))


 アリストテレスをはじめ、ニュートン、マクスウェル、アインシュタイン、ユングまで、何千年もの間、科学者たちが頭を悩ませ、心を踊らせ、そして、意見を戦わせてきた「シンクロニシティ(意味のある偶然)」。

 この事象は、量子力学にも少なからず影響を及ぼし、昨年のノーベル物理学賞は、まさにこの「量子もつれ」の存在を示したものでした。

「シンクロニシティ(意味のある偶然)」を中心に、古代から現代、そして未来へと至る科学の歴史が、科学者、そして哲学者たちを通して解説され、Forbes誌はじめ、数々のメディアでも絶賛された『シンクロニシティ 科学と非科学の間に』(あさ出版) について、NHK・Eテレ「ロッチと子羊」出演の哲学者・小川仁志さんが寄せた書評を紹介します。

 ***

 歴史は様々な視点で捉えることができる。西洋の視点、哲学の視点、科学の視点……。さらにその中でも、もっと視点を絞って、この世の中を構成する物質の視点で捉えることも可能である。

 人類は、この世界をどういう単位で捉えようとしてきたのか。そして、そのためにどのような工夫をし、苦難を乗り越えてきたのか。本書はそんな科学の中の、世界を構成する物質に着目した壮大な歴史を紹介したものである。

 古代ギリシアの時代から、人々はこの世界が何でできているのか考えてきた。太陽から届く光を見て、天体の動きを見て、また地球上に存在する多様な物質を見て、その意味について考察を重ねてきたのである。哲学という学問もまた、そうした自然の考察の中から誕生したといっていい。

 その後、より専門的に世界の現象を考察する科学という学問が独立し、以後両者は互いに切磋琢磨しながらこの世の謎の解明に努めてきたわけである。それは今、量子という概念の解明に集約されようとしている。

 世界を構成する物質をめぐる旅は、この量子という段階で急展開を見せているのである。しかも二つの粒子が瞬時に関係し合うという「量子もつれ」なる現象が証明され、この世の因果律をもひっくり返しかねない文字通りの急展開を、現実の物質が目の前で演じてくれているのだ。

 それによって、「何か原因があるから、結果が起こる」という私たちの常識が危機にさらされている。いったいどうしてそんなことが起こるのか? その謎はまだ完全には解明されていないが、少なくともそうしたことがミクロな世界で生じているのはたしかなのだ。

 ここで問わなければならないのは、いったいなぜ人類はそれを発見するに至ったかである。もちろんこのような高度なことが、ある日突然誰かの思い付きで起こることはあり得ない。そうではなくて、実に多くの人たちが少しずつ議論を深める中で、長い時間をかけて理論が形成されてきたのである。

 本書はまさにその過程を2000数百年にわたって克明に描き出してくれている。古代ギリシア時代のエンペドクレスから20世紀のアインシュタインが果たした役割まで。そして何より、本書の影の主役といってもいい、20世紀の物理学者パウリと心理学者のユングの果たした役割を詳細に描くことによって。

 そう、本書のタイトル「シンクロニシティ」は、パウリとユングによって提起されたこの世の謎を解く鍵概念といっても過言ではないだろう。にわかには信じがたいが、この世には意味のある偶然の一致が存在するというのだ。それがシンクロニシティである。

 あたかもそれは、二つの粒子が瞬時に関係し合う量子もつれを象徴しているかのようである。と同時に、この世の謎を解明するために、科学と哲学や心理学のような非科学がシンクロしてきた事実を象徴するものでもあるといえるのではないだろうか。

 これから先どんな謎が明らかになるのかは、正直誰にもわからない。ただ、どんな答えが出るにしても、それが科学と非科学のシンクロによって初めて可能になるだろうことは、本書がはっきりと示してくれている。

あさ出版
2023年6月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

あさ出版

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