<書評>『時刻表が薄くなる日』上岡直見 著

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時刻表が薄くなる日

『時刻表が薄くなる日』

著者
上岡 直見 [著]
出版社
緑風出版
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784846123062
発売日
2023/05/10
価格
2,970円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『時刻表が薄くなる日』上岡直見 著

[レビュアー] 宮田和保(北海道教育大名誉教授)

◆「社会資本」としての鉄道

 本書は危機に瀕(ひん)している公共交通とくに鉄道の現実を直視し、その打開の方向性を探ることを目的にしている。その危機の性格と具体的内容を把握するために豊富な資料の分析および多数の調査が行われている。

 国鉄の分割・民営化にさいして自民党は、「国鉄が…あなたの鉄道になります」「ローカル線もなくなりません」「全国画一からローカル優先のサービスに徹します」などの「意見広告」を掲載した。国鉄の分割・民営化から三十六年が経過したが、自民党がなくならないとした「ブルートレイン」はとっくに廃止されたし、ローカル線はいまなお廃止の対象になっている。

 この間に公共交通のあり方の何が変わったのか。各路線を網状に結ぶのが「ネットワーク型」で、在来線で出発地・目的地に直接行き来することができる。それが各路線を集約し、ハブ(中核)都市間をまとめて輸送する「ハブ&スポーク型」に変化しつつある。地方から地方への移動は乗り換えが多くなり、利用者にとってサービス低下であるが、事業者には効率化で、大都市中心の交通体系である。

 ローカル線は廃止されバスに転換され、主要幹線だけが残り、地方の地域はますます衰退する。鉄道事業者は列車の減便や駅の無人化などでサービスを低下させ「乗らせない」政策によって利用者の著しい減少=「赤字」を少しでも大きく見せ廃線への道をつくる。この典型を北海道にみることができる。その総計「赤字」は、JRグループで総計九千二百六十七億円(二〇一九年度)の営業黒字からみたら桁違いに小さいが。

 今国会でローカル線の廃線を容易に進める法案が可決された。一方では政府はリニア新幹線に財政投融資三兆円を投入する。政府による一極集中化と地方の切り捨てである。

 本書は、地域公共交通を利潤追求の「産業」ではなく「社会資本」「セーフティーネット」として取り扱い、このための客観的条件が存在することを示している。地域論・貧困論としても読める。

(緑風出版・2970円)

1953年生まれ。環境経済研究所代表。著書『自動運転の幻想』など。

◆もう1冊

『自動車の社会的費用・再考』上岡直見著(緑風出版)

中日新聞 東京新聞
2023年7月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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