『PYRAMIDEN』佐藤健寿著(朝日新聞出版)
[レビュアー] 読売新聞
北緯78度、北極点まで約1000キロ。ノルウェー領スピッツベルゲン島の中部に、かつて人類が暮らす「世界最北の街」があった。その名は、スウェーデン語でピラミッドを意味する「ピラミデン」。
長くソ連系の企業が石炭を採掘していたが、1991年のソ連崩壊とともに徐々に人が姿を消し、世界最北のゴーストタウンとなった。本書はその写真集だ。
よくある廃墟(はいきょ)やゴーストタウンの写真集と趣が異なるのは、まず周囲が寒すぎるため、こけむしたり、草に覆われたりしていない点だ。また、街の背後に控える壮大な氷河と、整然と立ち並ぶいかにも社会主義的な住宅群のアンバランスさは、「人工物」の異様さを一層際立たせる。
時が止まったかのような、人だけが“蒸発”したかのような不思議な光景を眺めていると、ゾクゾクしてくる。果たしてそれは恐怖か恍惚(こうこつ)か――。(十)