『左利きの言い分』
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『左利きの言い分』大路直哉著
[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)
「左利き用は種類が少ないから後々好きなものを選べなくなるし、今のうちに右で練習しちゃった方が絶対に良いよ」
左利きの私が初めてギターを買いに行ったあの日、楽器店のスタッフは言った。きっと、目の前の冴(さ)えない中学生が、将来プロのミュージシャンになるなんて夢にも思わなかったのだろう。この恨みは25年経(た)った今でも消えない。ギターは左で弾いた方が圧倒的に目立つし、格好良いからだ。このように世界は右利き中心に回っているということを、本書は思い出させてくれる。文字を書くとき、ハサミを使うとき、自動改札機にICカードをタッチするとき、左利きはいつも遠回りさせられる。でもだからこそ、日々積み重なる不便さや違和感を通して物事を多角的に捉える「不便益」や、左利きだからこそ持ち得る他者へのささやかな配慮、「共感力」が培われるという。なるほど、もしかすると左利きが知りたいのは右利きの気持ちで、左利きほど、かえって左利きを見ていないのかもしれない。そんなことを考えながら、今日もステージで右利き用のギターを弾く。(PHP新書、1210円)