「天気予報」はなぜ外れるのか?その理由から見えてきた気象学のおもしろさ

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読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし

『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』

著者
荒木 健太郎 [著]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
自然科学/天文・地学
ISBN
9784478108833
発売日
2023/09/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「天気予報」はなぜ外れるのか?その理由から見えてきた気象学のおもしろさ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(荒木健太郎 著、ダイヤモンド社)の著者は、雲科学・気象学を専門とする雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。新海誠監督の映画『天気の子』において気象監修を担当した人物でもあります。

本書はそのような立場に基づき、「『気象学』のおもしろさを伝えたい」という思いを込めて書かれたのだといいます。

しかし、そもそも気象学とはどのような学問なのでしょうか?

気象学は天気予報という形で私たちの生活に大きく関わり、災害などから身を守るための防災という役割を持っているだけでなく、地球温暖化などの地球環境の現在・未来を正しく理解するという側面も持つ、実践的な学問です。

地球科学の一つとして、地学や工学との関わりも深いのですが、農学や経済学、医学などにも関連します。

そして、気象という物理現象を説明するために、数式を使って現象を記述し、それをシミュレーションなどにも利用して天気予報をつくっているのです。(「はじめに」より)

気象学を学ぶと、人生がより豊かになると著者は考えているそう。

たしかに空の現象の仕組みを知っていれば、美しい空や雲の風景に出会いやすくなることでしょう。しかしそれだけではなく、突然の雨などに触れて困ることが少なくなったり、災害から身を守ることにつながったりもするようです。

少しの知識を持っているだけで、世界が変わって見えるようになるということ。さらに数式を使って物理的にも理解できるようになると、概念的な理解から数値的な理解にまでおよび、さらにおもしろくなってくるのだとか。

つまり、学べば学ぶほど楽しくなってくるというわけです。そんな気象学を解説した本書から、きょうは天気予報に着目した第6章「天気予報はこんなにも面白い」内の「天気予報はなぜ外れるのか」に焦点を当ててみたいと思います。

予測が難しい理由

「これだけ科学が発達しているのに、なぜ天気予報は外れるんだろう?」という疑問を抱いたことのある方は少なくないはず。しかし、これには理由があるようです。

天気予報のベースとなる数値予報では、観測データをもとに仮想の三次元の大気を作り、それを出発点にして、運動方程式で将来の状態を予測しています。このシミュレーションの解像度に対して、現象が小さいと予測が難しくなります。(中略)

また、計算の元になる初期値には誤差がつきものです。大気の運動には「初期値の小さな差が時間とともに増大する」というカオス(混沌)的な性質があり、ちょっとした誤差でも、時間が経つと無視できない大きさに成長します。(320〜321ページより)

小さな揺らぎが時間の経過に伴って遠くに伝わるうちに、大きな振幅になるという概念は、アメリカの気象学者エドワード・ローレンツ(1917-2008)が1972年に発表したものだそう。

その際には「ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を起こすか」という演題で発表したため、この概念は「バタフライ・エフェクト」と呼ばれているといいます。

正しく計算したとしても、さまざまな要因が引き起こされて現実とは違った未来を導き出してしまうということ。そして、週間天気予報などの中期的な予報、季節予報などの長期的な予報、台風の予報などの場合でもカオスの問題は避けて通れないわけです。

そこで、あらかじめ誤差を与えて複数のシミュレーションを実行し、結果のばらつきからどのくらい天気が変わりやすいかを判断するために使われているのが「アンサンブル予報」。台風情報に使われる予報円も、アンサンブル予報によるものなのだそうです。(320ページより)

微粒子が雲を変える

また天気予報が外れる理由としては、私たちがまだ気象を充分に理解できていないということも挙げられるようです。なかでも、とくに発展途上にあるのが「雲」の研究。

ほとんどの雲は、大気中の微粒子、「エアロゾル」を核として発生しています。

空気が湿っている日に、煙突から出た煙がそのまま雲になることがあります。あれは、まさに煙突から出た煙が核として働き、雲を作っているところなのです。(323ページより)

エアロゾルが雲や降水に与える影響については、ある程度は解明されつつあるようです。エアロゾルが少ない場合には、発生する雲粒(雲をつくっている水滴や氷結晶)の数が減るので、雲粒ひとつが成長するために使える水蒸気の量が増えます。

すると雲粒がすぐに成長して雨になるので、雨量は増え、雲の寿命が短くなるというわけです。

逆にエアロゾルの多い空では、雲粒の数が増えます。そのため雲粒ひとつあたりが消費できる水蒸気量が減り、雲粒はなかなか成長できなくなります。その結果として雨量は減り、雲の寿命が長くなってしまうのです。

なお、このことは地球温暖化の予測にとても重要なのだとも著者は述べています。

雲は太陽からの放射を反射することで、基本的には地球の温度を下げる役割を持っています。つまり雲の寿命や量が変われば、そのぶん太陽放射をどのくらい反射するかが変化するわけですから、地球の温度にも影響するのです。

一方で、氷を含む背の高い雲、たとえば積乱雲に対するエアロゾルの影響は、まだよくわかっていません。

エアロゾルが増えると雲がより発達し、そのぶん雲に供給される水蒸気量が増えるので、雨量が増えるという説があります。

エアロゾルの数は人間活動によって変化し、大型トラックからの排ガスによって火曜日から木曜日に数が多く、その影響で「積乱雲が水曜日に発生しやすい」とする研究もあるほどです。(325ページより)

つまり、「エアロゾルが増えれば雨量が増える」という説を実証する観測研究がある一方、反証する観測研究も存在するのです。

そればかりか、大気の状態や上下方向の風のずれ、積乱雲の形態やまとまりによっても雲や降水への影響が異なるため、現在も議論が続いているのだそうです。

だからこそ、地球温暖化の予測においてエアロゾルと雲・降水の関係は不確実性が大きいといわれているわけです。そしてそれは、天気予報などの短期的な予測にも影響すると考えられているようです。(323ページより)

どの項目からでも読みはじめることができるので、気象に関するちょっとした疑問も解消できるはず。雲と虹をより楽しむための「フローチャート」なども付録もついているので、気象学についてのノウハウを無理なく身につけられることでしょう。

Source: ダイヤモンド社

メディアジーン lifehacker
2023年12月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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