『なんで日本研究するの? Why Study Japan?』シュミット堀佐知編著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

なんで日本研究するの?

『なんで日本研究するの?』

著者
シュミット 堀佐知 [編集]/佐々木 孝浩 [著]/日比 嘉高 [著]/江口 啓子 [著]/マーク・ブックマン [著]/末松 美咲 [著]/セツ・シゲマツ [著]/ディラン・ミギー [著]/クリストファー・ローウィ [著]
出版社
文学通信
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784867660195
発売日
2023/10/20
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『なんで日本研究するの? Why Study Japan?』シュミット堀佐知編著

[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)

国内外9人 楽しく語る

 昨年末、オランダとベルギーで日本研究者と交流しました。中国研究に押され気味というのは今や昔。オランダで訪ねた名門大学では、一学年のうち中国研究五五名、韓国研究六五名に対して、日本研究に取り組む学生は一二〇名と抜群の人気だそうです。ベルギーのトップ大学でも三学年で中国研究五〇名に対し日本研究一五〇名と同様に盛況でした。

 もっとも、日本語の難しさに脱落する学生も多いといいます。そうでしょう。本書は日本研究に出会い、そうした難しさを乗り越えた九人のエッセイを日本語と英語の相互翻訳で収めています。

 海外に生まれ日本研究に向き合う三人と、日本に生まれ海外で日本研究を進める二人の文章からは、日ごろ目につく日本特殊論や礼賛論ではない、救いの道としての日本研究の姿が浮かび上がります。欧米社会に当たり前のようにある「真理」や「正義」に生きづらさを感じた彼らは、現在や過去の日本のなかに自分に似た存在を見つけ、生きる意義をつかんだのです。

 日本で生まれそれぞれの研究に取り組んできた四人も、国内の社会や学会に閉塞(へいそく)感を覚えていました。そこから脱するきっかけが世界とつながることでした。国内でマジョリティであり続けるのではなく、海外でマイノリティとして過ごす経験を経た彼らが壁を越え、差異のなかから新しい価値を生み出しています。

 彼らは日本を題材としてだけでなく、自らの周りにある「正しさ」を問い直す方法として用いています。権力性を問い、多様性を論じるときに、日本という方法は魅力的で有効なようです。

 本当の救いは、彼らがなんとも楽しく日本研究を語っていることでしょう。御伽草子がガリバー旅行記に着想を与えて、それが創作の連鎖として『ONE PIECE』に再帰しているといった面白い話ばかりで、もっと聞きたくなります。

 世界に開けた日本研究は、コロナを乗り越えてぐっと広がっているようです。この流れ、一緒に乗ってみませんか。(文学通信、2640円)

読売新聞
2024年1月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク