『まっすぐ考える 考えた瞬間、最良の答えだけに向かう頭づくり』
- 著者
- ダリウス・フォルー [著]/桜田直美 [訳]
- 出版社
- サンマーク出版
- ジャンル
- 社会科学/社会科学総記
- ISBN
- 9784763140487
- 発売日
- 2024/01/12
- 価格
- 1,540円(税込)
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【毎日書評】いま欲しいのは「人生を好転させる考え方」と、それを身につけるヒント
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『まっすぐ考える 考えた瞬間、最良の答えだけに向かう頭づくり』(ダリウス・フォルー 著、桜田直美訳、サンマーク出版)は、2017年に刊行されて世界的ベストセラーとなった『THINK STRAIGHT』の日本語版。
著者は人生、ビジネス、生産性、資産形成に関する考えなどを執筆している人物ですが、本書を書いたのは人生でかなりつらい経験をした直後だったのだとか。
当時は行き詰まって無気力になり、人生がまったく前に進んでいないように感じていたというのです。その結果、気持ちはネガティブになり、いつもストレスまみれだったそう。
しかし、そんな経験をしたからこそ、同じように苦しんでいる方には知っておいてほしいことがあるのだといいます。それは、「いまの状況は、決して永遠には続かない」ということ。自分の考え方はいつでも変えることができ、それこそが成功への第一歩だというわけです。
そう考える著者は本書において、読者が意思決定のスキル、集中力、精神の明晰さを手に入れるために、役に立つ考え方やテクニックを提供することを目指しているそう。そしてそのバックグラウンドには、ひとつの考え方があるようです。
もっとも影響力が大きい哲学者の1人で、私の考え方を形づくってくれた人物は、プラグマティズムという分野のパイオニア、ウィリアム・ジェームズだ。
彼の哲学は、思考を実践に応用することに重きを置いている。「大切なのは実際に行動して試してみること」という考え方だ。
ジェームズは、「ストレスに対抗する最大の武器は、ある思考の代わりに『別の思考』を選ぶ能力だ」という言葉を残している。この言葉は、私の人生にとても大きなインパクトを与えた。プラグマティズムが人生に与える力を見事に表現した言葉だ。(「まえがき 日本のみなさんへ」より)
このようにプラグマティズムを軸とした本書のなかから、2つの考え方を抜き出してみることにしましょう。
勝手な決めつけを捨て、「事実」を見る
著者は「勝手な決めつけ」が嫌いだといいますが、その一方、自身がさまざまな局面であらゆることを勝手に決めつけているという事実も認めています。
たとえばメールの返信がなかったとき、「私のことなど、どうでもいいと思っているのだろう」と決めつけたり、誰かが自分に対して謝罪した際には、「どうせ本気の謝罪ではない」と決めつけたり。
しかし当然ながらそれは適切な判断ではなく、明晰な思考を実践したいなら、勝手な決めつけを捨てるべき。そうしたうえで、事実だけを見る必要があるのです。なお、そんな姿勢をいちばん的確に表現しているとして、著者は前述したウィリアム・ジェームズのことばを引き合いに出しています。
「プラグマティズムがまず重視するのは確固たる事実だ。その事実を前提にして個別の事例における真実を観察し、そこから一般論を導き出す」と彼は言う。(69ページより)
さらに、このことをわかりやすく説明するために、2つの意思決定の方法を比較しています。ひとつは「事実」に基づく意思決定(研究、統計、実験、検証済など)、もうひとつは「決めつけ」に基づく意思決定(意見、決まり文句、想像、思い込み、推測など)です。
・あなたの製品は問題を解決するか? それとも解決すると決めつけているだけか?
・あなたは自分のスタートアップのために資金を調達することができるか? それともできると決めつけているだけか?
・昇給はあるだろうか? それとも上司は昇給してくれるはずだと決めつけているだけか?
・この営業は成功するか? それとも顧客が契約書にサインするはずだと決めつけているだけか?
・あなたの芸術作品は評価されるか? それとも評価されるはずだと決めつけているだけか?(69〜70ページより)
前述のとおり自分に「勝手に決めつけがち」な側面があることを認めながらも、著者はできるだけ決めつけを避けるようにしているそうです。それは、ただ事実だけを見て、そこから結論を導き出したいという思いがあるから。もちろん事実が見つからないこともあれば、すぐに決めなければならないこともあるものですが、そんなときには自分の直感を信じることにしているのだといいます。
しかしいずれにせよ、他人の勝手な決めつけに左右され、自分の思考を無駄づかいすることは避けるべきだということです。(68ページより)
「説得」しようとしてもムダ
たしかに事実を見ることは大切ですが、事実と真実は違うものでもあります。
そしてこの点に関連し、ここでは西洋哲学に多大な影響を与えたドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェの「この世に事実は存在しない。ただ解釈があるだけだ」ということばが引用されています。
ニーチェは自分自身を知り尽くした人物だった。
心理学者のジークムント・フロイトは、そんなニーチェに感心し、「彼ほど自分自身を深く理解した人物はかつて存在せず、これからも存在しないだろう」と言った。
ニーチェの思考は非常に分析的だった。そして自分自身の思考が対象になると、その分析は特に鋭さを増す。
「この世に事実は存在しない」というニーチェの言葉が意味するのは、人間である私たちにとって、現実とは究極的に「自分の解釈した現実」でしかないということだ。この現実を客観的に確認する方法は存在しない。(73ページより)
ただしそれは、この世にたしかなものはひとつも存在せず、誰もが大きな夢のなかで生きているという意味ではありません。ただ、「事実と真実は違う」という認識を忘れてはいけないということ。その違いを知っているだけで、かなりのエネルギーを節約できるというのです。
なぜなら、真実と事実が違うなら正解も間違いもないということであり、それを理解していれば、自分とは違う「真実」を信じている人をわざわざ説得しようとは思わなくなるからだ。(74ページより)
他人の真実を変えようとするのは、まったくな無駄な努力。自分の貴重なエネルギーは、もっと他の役に立つことのために使うようにするべきだということです。(72ページより)
「人生にプラグマティズムの考え方を適用すれば、すべてのことがもっとシンプルになる」と著者は述べています。すなわちそれが、本書においていちばん大切なメッセージであるということ。ピンとくることがあったら、ぜひとも実践してみたいところです。
Source: サンマーク出版