『エッセンシャルワーカー』
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『エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』田中洋子編著
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
独と比較 低処遇改善促す
コロナ禍で「日常生活になくてはならない仕事をする人」いわゆる「エッセンシャルワーカー」の存在が世界中でクローズアップされた。メルケル独前首相のそれらの人々に対する感謝のスピーチは記憶に新しい。では日本のエッセンシャルワーカーがおかれた状況はどうか。本書はドイツの現状や改革の動向と比較しつつその現実を描き出し改革を促す。
調査の対象となるのはスーパーや飲食業の従業員、看護師、介護職、ゴミ収集員など多岐にわたる。エッセンシャルワーカーの雇用実態を見ると、多くの職種で1990年代から近年まで急速に非正規化が進んだことがわかる。また非正規の従業員が管理業務に携わるケースがかなり多いのも日本の特徴である。定型作業の賃金は低く据え置かれ、管理業務を担っているケースでは仕事内容と労働条件が見合っていないことを本書は緻密(ちみつ)なデータ分析とヒアリングで明らかにする。
非正規雇用が増加したのは、いうまでもなく企業や官公庁がコスト削減でバブル崩壊後の不況を乗り切ろうと低処遇の非正規雇用を推し進めたことが主因だ。企業は様々なタイプの人々を非正規労働者として雇用し、管理業務も担当させた。それにも拘(かか)わらず、非正規の従業員は家計補助が目的で働いている主婦も多く、仕事も定型的で転勤がないことを低処遇の根拠としてきたという。企業や政府に対する、著者の批判の舌鋒(ぜっぽう)は鋭い。その批判には長く続いた厳しい経営環境に対応するにはやむを得ない対策であったとする企業側からの反発もあるだろう。
だが情勢は変化した。今までの対応がデフレを生じさせ経済停滞を招いたのではないかという反省が起きている。また人手不足が深刻となり、手を打たないと社会インフラやケアサービスの維持、経営にとって、看過できないボトルネックが生じると国や企業も感じ始めた。処遇の見直しは既に始まっており関係省庁も対応に乗り出した。IT技術や外国人の受け入れで労働力の不足を補うことは容易ではないだけに経営環境や財政は厳しいが本書の説く処遇改革は急務である。(旬報社、2750円)