『方言漢字事典』
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『方言漢字事典』笹原宏之編著
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
本書を見て、とっさに「ウソぉ」と思ってしまう方は多いのではないか。私自身も、版元が硬派な出版社でなければ、知的な娯楽のためのフェイク事典だと思い込むところだった。
漢字を生み出した中国には、日常的に使われている簡易体の漢字がある。私たちも漢字を省略して書くことはよくあるし、(けっこう面倒くさい)旧字と新字の違いもある。これらはすべて「異字体」であるが、ここに「地域性」という要素を加えると、方言漢字が誕生するわけだ。ちっとも不自然なことではなく、「ウソぉ」でもない。そもそも中国には、最初から地域限定文字として創られた漢字があるという。
さて、それを踏まえた上でページをめくっても、本書はやっぱり驚きの事典だ。帯に引用されている三つの方言漢字(●(じじ)、●(とど)、●(ほき))だけでも、「なんて読むの?」と目をぱちくりする派と、「実家の方じゃ普通に使ってる字だけど、これ方言だったのか」と驚く派がいるはずで、その様子を想像すると心楽しい。方言漢字の歴史のなかには、その土地で生きてきた人びとの息づかいが込められているのだ。(研究社、2970円)
●(じじ)=男へんに老、●(とど)=魚へんに鹿、●(ほき)=山かんむりに川