『方言漢字事典』笹原宏之編著

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方言漢字事典

『方言漢字事典』

著者
笹原 宏之 [著、編集]
出版社
研究社
ジャンル
語学/日本語
ISBN
9784767450254
発売日
2023/10/24
価格
2,970円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『方言漢字事典』笹原宏之編著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 本書を見て、とっさに「ウソぉ」と思ってしまう方は多いのではないか。私自身も、版元が硬派な出版社でなければ、知的な娯楽のためのフェイク事典だと思い込むところだった。

 漢字を生み出した中国には、日常的に使われている簡易体の漢字がある。私たちも漢字を省略して書くことはよくあるし、(けっこう面倒くさい)旧字と新字の違いもある。これらはすべて「異字体」であるが、ここに「地域性」という要素を加えると、方言漢字が誕生するわけだ。ちっとも不自然なことではなく、「ウソぉ」でもない。そもそも中国には、最初から地域限定文字として創られた漢字があるという。

 さて、それを踏まえた上でページをめくっても、本書はやっぱり驚きの事典だ。帯に引用されている三つの方言漢字(●(じじ)、●(とど)、●(ほき))だけでも、「なんて読むの?」と目をぱちくりする派と、「実家の方じゃ普通に使ってる字だけど、これ方言だったのか」と驚く派がいるはずで、その様子を想像すると心楽しい。方言漢字の歴史のなかには、その土地で生きてきた人びとの息づかいが込められているのだ。(研究社、2970円)

●(じじ)=男へんに老、●(とど)=魚へんに鹿、●(ほき)=山かんむりに川

読売新聞
2024年2月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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