『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』
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『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』斉藤章佳著
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
「手なずける」3種の手口
二〇二三年三月のイギリスBBCによるドキュメンタリー番組を契機に、我が国の社会全体を揺るがした旧ジャニーズ事務所の性加害問題。本書の著者も冒頭でこの事件に触れ、その上で、子どもへ性加害を繰り返す「小児性愛障害」に臨床の現場で向き合ってきた立場から、ひとつの違和感を覚えたと記している。この問題を語る際に、「グルーミングや小児性愛障害の本質にはほとんど触れられていない」と。
副題にある「性的グルーミング」とは、子どもとのあいだに信頼関係を築き、関係性を巧みに利用して性的な接触をすることをさす言葉だ。嫌な表現だが、ずばり「手なずける」と言えばわかりやすい。本書ではこれを3つのパターンに分類している。
〈1〉オンライン上でのグルーミング
〈2〉面識のある間柄でのグルーミング
〈3〉面識のない間柄でのグルーミング
〈1〉はSNSやゲームアプリを介して子どもたちに近づく手口であり、昨年七月の刑法改正である程度取り締まることができるようになった。〈2〉は旧ジャニーズ事務所の事件がまさにこのパターンだが、性加害の以前に加害者と被害者のあいだに上下関係(学校や塾、スポーツの指導者など)や(保護者を含んだレベルでの)親交がある場合だ。〈3〉の場合はいわゆる「流し」の犯罪だが、それでも被害者の子どもを言いくるめ、犯行そのものを糊塗(こと)するためのグルーミングが行われるのだという。
多くの保護者の皆さんは、本書の内容を知るどころか手に取るのも気が進まないだろう。それでも、せめて最終ページの「子ども性被害 相談窓口一覧」だけでも目にとめていただきたい。元日の能登の震災に、いざというときの備えを見直したご家庭は多いはずだ。本書もそれと同じように考えてほしい。その必要がないことを願いながら非常持出し袋を詰めるように、本書と向き合ってください。(幻冬舎新書、1078円)