第四回 大人を超える知恵を発揮する少年少女『ステップファザー・ステップ』

宮部みゆきのこの小説がスゴイ!

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ステップファザー・ステップ 新装版

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宮部 みゆき

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 宮部さんの小説に、老人と子供がしばしば登場することは、すでにご存じのとおりです。それも、大人を超える知恵が発揮されている作品ばかり、と言っていいほどです。
『ステップファザー・ステップ』もその一つ。ただしさとしという瓜二つの双子の中学生、なんだか兄弟の漫才コンビみたいですが、この二人が掛値なく面白い連作短編集です。上川隆也さん主演でTVドラマとなった人気作でもあります。
 ステップファザーとは、英語で継父のこと。この双子の兄弟にも実の両親がいるのですが、この両親は同時にみちならぬ恋にはしり、家を出てしまった。実母・実父は、自分は出奔したけれど片方は家に残っていると思い込んでいる。結果として実家にいるのはこの兄弟だけという悲惨な状況が生れてしまったらしい。
 彼らの隣家に忍び込もうとしたのが、ギルドを組んで泥棒稼業を営んでいる主人公で、これが運悪く雷の一撃で気を失い、気づけば双子の世話になっていた。意識が戻った時に主人公は、ある取引を強要されます。それが「僕たちのお父さんになってほしい」というもの。
 警察に通報されたくなければと、言外に脅迫されているわけです。

イラスト 星野ロビン
イラスト 星野ロビン

 さて、そんな変わった設定の物語ですが、今回紹介したいのはその第二話「トラブル・トラベラー」です。
 主人公の元に兄弟からメロディ電報が届き、そのカタカナでの文面には「タスケテ」の文字が繰り返されていた。「エキマエデマッテマス」ともある。
 その前に彼らが倉敷に遊びに行くことを知らされていた主人公ですから、どんなトラブルか知らんが岡山方面にまで俺を迎えに来させる気かよ、と渋っていたら、さにあらず。どうやら町おこしで倉敷の美観地区のコピーをこしらえた関東近県の町があって、そのクラシキに救出に来いということらしい。
 この設定がふるっているのは、この町の徹底したコピー精神です。ハイライトとして大原美術館を模したコピー美術館があるのですが、ここには名画の複製がズラリと並んでいる。しかし、一点だけ、時価何億円というホンモノの泰西名画があるんですねェ。ここから真贋のテーマ、鑑定団的テーマが立ち現われてきます。
 双子の兄弟が巻き込まれたトラブルは置き引きの被害でした。しかしこれには実は主人公の属するギルドのお仲間が関わっていた。その人物こそが、この鑑定団ゲームに大きく絡んできます。
 さてさて、この連作集は、ギャグが冴えに冴えていて、まず双子の話し方からしてギャグの極みなんです。他にも宮部さんのオリジナル・ギャグが満載。コロナ禍時代にぴったりの作品であること請け合いです。
忘れてはいけないのは、少年少女が描かれるときに、宮部作品では必ず大人を超える知恵が発揮され、大人がタジタジとなるという点です。上から目線で子供の考えることを限定してかかることとは、宮部さんは常に無縁なのです。