「何かこの世に未練があって、成仏できないでいるんですか? 俺の知る限り、そういうのは全然ない人だったのですが」
すると彼女は困った顔で答えた。
「うーん、成仏とかそういうのはわからないわ。私、仏教徒じゃないから」
なんだそりゃ、と俺はひっくり返りそうになった。
「ただ、そこにいる霊とお話ができるだけなの。霊がいつまで残ってるのか、その後どこに行くのかは、お坊さんに聞いて頂戴」
まあそういうものか、と思った。
俺が死者の霊を信じない理由のひとつは、そのルールの不統一さのせいだ。天文学なら中国もヨーロッパもマヤ文明でも同じように進歩した。これは惑星や恒星という実在物を扱っていたからだ。それに比べて、霊の扱いが洋の東西で違いすぎるのは、実在しない対象をそれぞれが勝手にでっち上げているからに他ならなかった。
とはいえ。
「……ひいばあちゃん自身は」
と俺は口を開いた。もしひいばあちゃんが現世に未練を持っているとすれば、その理由はひとつしか思いつかない。
「ああいう葬式、望んでいなかったと思うんですよ。もともと儀式とか嫌いな人ですし、自分の死を悲しむための場をわざわざ用意して、大勢の人に集まってもらいたくはなかったはずです」
「ああー、そうかもしれないわねえ」
「どう思いますか?」
と、主語をつけずに尋ねた。
俺は「ひいばあちゃんの霊」ではなく、この女性に尋ねていた。死んだ人の意見を聞くことはできないし、そんなものに意味があるとは思えなかった。
それよりも、俺の知っている故人の人物像を、誰かに問うてみたかった。できれば、ひいばあちゃんのことをよく知っている人に。
「それ、私に聞いてるの?」
と、相手はこちらの意図を読み取ったようだった。