■1-4 故人も喜んでいることでしょう 

幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする

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前回のあらすじ

ひいばあちゃんは死んだが、世界は平穏だった。玄関チャイムで目が覚めた。鵜沼ハルと名乗る奇妙な霊媒師が現れたのは、そんな連休の最終日だった。

イラスト/土岐蔦子
イラスト/土岐蔦子

■1-4  故人も喜んでいることでしょう 

  死んだひいばあちゃんの弔問に「女学校の同級生」を名乗る謎の女性が現れた。そして彼女はどう見ても、俺の母さんより若い。この時点で俺が考えた可能性は3つだった。 
 パターン1。この女性は認知的な何かを喪失しており、自分がひいばあちゃんの友達だという妄想を抱いている。そういう精神疾患を以前本で読んだ。 
 パターン2。意図的に嘘をついている。 
 パターン3。実年齢より(2世代ほど)若く見えるタイプである。 
 1はありそうに思えた。弔問に来て笑う態度も、仏壇に話しかける様子も、どうも正常な判断力があるとは思えなかった。外見は健康そのものだし、所作のひとつひとつが彼女なりの確信に満ちているようには見えるが、妄想癖とはそういうものなのかもしれない。 
 2はもっと合理的だ。死者の縁故者をかたる詐欺師、というのはいかにもありうる。彼女はひいばあちゃんの親族構成をきちんと調べて来たものの、「大樹たいじゅくん」と俺を間違えたあたりで親族を騙ることは無理だと判断し、友達を名乗る戦略に出たのかもしれない。 
 ただ、詐欺師にしては嘘があまりに雑すぎた。まるで何らかの意図があって「私は嘘つきですよ」とアピールしているように思えた。初対面の相手にそんなことをする理由が思いつかない。 
 3は可能性として挙げただけで、検討する必要を感じたわけではない。 
 いずれにせよ警察や医師を呼ぶような状態でもなさそうだった。となると俺がするべき行動は、なるべく面倒を起こさずに、穏便に帰ってもらうことだった。