【試し読み】960万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『いつまで』⑤

【試し読み】960万部突破「しゃばけ」シリーズ最新作『いつまで』

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 ぎゃああっと、昼間の通町に、とんでもない、声のような大音が響いた。
 その音を耳にしてしまった人々は、皆、鳥肌を立て、上を下への騒ぎになった。
 何しろ江戸の世には、起きた事を、直ぐに、正しく伝えてくれるような、便利なものはない。そして怪しい事を確かめずにおくと、大火に巻き込まれたり、町に迷い込んだけものに出会い、大怪我をしたりしかねなかった。
 うわさ話をつかむことは、命に関わる大事な事なのだ。
 長崎屋でも大音が響き渡ると、仁吉と佐助が直ぐに離れに来て、まずは若だんなの無事を確かめた。その後、店からは小僧頭を表へやり、離れからは、妖を影内へ入れ、事情を掴ませにかかった。
 正しい話を掴み、直ぐに戻ってきたのは、離れで若だんなに昼餉を作っていた、おしろであった。
「大変です。あの大音ですが、何と長崎屋が貸している、火幻さんの二階屋から聞こえてます」
「何が起きてるんだ?」
 おしろは兄や達と若だんなへ、火幻が、見た事の無い妖と戦っていた事を告げる。
「相手も妖です。蛇みたいな体でしたけど、くちばしのある人の顔をしてました。あれ、前に仁吉さんが言っていた、以津真天なのかも知れません」
 真昼だというのに、火幻も以津真天も、妖が持つ力を目一杯使い、暴れているように思えたという。ただ、おしろは影から二階屋へ入り、その様子を確かめている。つまり、他の妖を退ける余裕の無い火幻達は、兄や達ほど強い妖では無いのだろう。
「どうしましょう、二階屋の辺りに、人が集まってきてます。以津真天の姿を見られたら、それだけで大騒ぎになりますよ」
 二階屋は、長崎屋が火幻へ貸している家だから、そうなると、若だんなも巻き込まれかねない。仁吉が、黒目をはりのように細くした。
「火幻の阿呆あほうが。何を始めたんだ」
 ここで、金次や屏風のぞきも離れに現れ、では止めようかと、兄や達へ言ってくる。
「あれ、止める方法、分かるの?」
 若だんなが問うと、火幻相手ならやり方はあると、貧乏神達が笑った。