【自著を語る】田丸雅智「ベタベタで、いいのだ。」

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家族スクランブル

『家族スクランブル』

著者
田丸 雅智 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784093864107
発売日
2015/05/14
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【自著を語る】田丸雅智「ベタベタで、いいのだ。」

 家族をテーマに作品を書きました。

 などと言うと、ベタだなぁ、狙いにいってるねぇ、と思われる方もいらっしゃることだろう。自分でも、そう思うところは、少しある。我ながら、王道を選んだもんだなぁと。

 でも。

 作家をつづけていくうちに、いつかは通らなければならない道だと、ずっと思って過ごしてきた。家族をテーマに作品を書いて、自分の中の家族にまつわる思い出を物語へと閉じ込める。そういう作業をしなくてはと、ものを書きはじめてから、長らく思ってきた。だからこの『家族スクランブル』は、ぼくにとっての通過儀礼のようなものでもある。

 ぼくは家族に恵まれて育ってきた。両親、祖父母、弟、それから親戚。高校までは、愛媛県の松山市で過ごした。上京したのは、大学からで。

 一人暮らしをはじめて、少したったころのことだった。あるときぼくは、自分の身体に異変を感じた。どうしてか、肌がひどく荒れだして、体調もなんとなくすぐれない。おかしいなぁ、なんでかなぁ、と思っていた、そんなある日。ぼくは、はっと気がついた。あ、これって食事のせいなのでは、と。それと同時に、言いようのない感謝の念がこみあげた。母の作ってくれていた食事。当たり前のように口にしていたけれど、あれは、ものすごくありがたいものだったのだなあ……。ぼくは、何も考えずに生きてきた自分を心底、恥じた。そしてすぐさま、母に感謝の言葉を素直に伝えた。それがうまく伝わったかは別にして、本書に収録された拙作「母の米」の裏側には、直接的ではないにしろ、じつはそういう体験が渦巻いている。

 話変わって父親は、相当シャイな人間だ。

 本当はものすごく深く優しい人なのに、決してそれを人には見せない。だから、誤解をされやすい人なのだけれど、そんな父にしてもらってきた数々のことを、忘れたりはしやしない。

 ぼくが何かをやらかしたとき、最初に父は、厳しく叱る。でも、その直後には、必ず救いの手を差し伸べてくれる。絶対的に、必ず、なのだ。それも言葉少なめに。ぽいっと放り出すように。(ぼくの照れ隠し癖は、たぶん、父の影響だ。)

 いまでもときどき、ぼくは父と一緒に温泉に行く。いつか、温泉好きの父を草津にでも連れていって、昔のことをゆっくり話したいもんだなぁ、などと考えているのだが、そんな思いが交錯してできたのが拙作「湯手品」。湯屋での父との思い出もブレンドしてみた。いわば、父を封じ込めた作品だ。

 自分という人間は、家族で構成されている。

 それが分かっていたからこそ、執筆する上で避けては通れないテーマだと思ったのだ。ベタでも、陳腐でも、いい。家族というテーマで本を上梓できたことは、本当によかったなと、しみじみ思う。『家族スクランブル』は、ぼくにとってのさまざまな家族との思い出を、スクランブル──ごちゃまぜにして詰め込んだ、大事な大事なアルバムなのである。

 この本を読んだあと、もしもみなさんひとりひとりの心の中にある思い出が刺激され、みなさんにとっての家族にまつわる感情があふれだしてきたならば、作家冥利に尽きるというもの。

 ベタベタで、いいのだ。ぼくは家族が大好きです。

photo2

田丸雅智(たまる・まさとも)
ショートショート作家。1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、「桜」を『物語のルミナリエ』に発表しデビュー。12年、「海酒」で樹立社ショートショートコンテストの最優秀賞を受賞。著書に『夢巻』『海色の壜』『珍種ハンターウネリン先生』などがある。

Photograph:Tomoko Shiotani

小学館 本の窓
2015年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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