『おとぎカンパニー 妖怪編』
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妖怪の気配 田丸雅智
[レビュアー] 田丸雅智(ショートショート作家)
海外童話をもとに二次創作した前々作『おとぎカンパニー』、そして日本昔ばなしをもとにした前作『おとぎカンパニー 日本昔ばなし編』。それにつづくシリーズ第三弾となった本書のテーマは、妖怪だ。
子泣きじじい、ぬりかべ、砂かけばばあ……日本人なら誰もが知るであろう妖怪たちには、ぼくも例に漏れず小さい頃から親しんできた。特に大好きだったのが、「ゲゲゲの鬼太郎」。小学生のころはテレビアニメに夢中になったものだ。ぼくの住む地域では放送時間が夕方で、見終わったあとはあたりは夕闇。そこかしこに妖怪たちの気配をたしかに感じた。
そんな彼らが、現代社会で活躍したらどんなふうになるだろう? ぼくなりに考えたのは、こんな感じだ。
子泣きじじいがとりついて、自らの身体を石のように重くする力で電子データを重くするという話。スーツを着たぬりかべがやってきて、ぬりかべ派遣サービスの勧誘をしてくるという話。砂かけばばあが砂を使ってSNSの炎上を消火してくれるという話……十二編のいろいろな妖怪の姿を楽しんでいただければ幸いだ。
現代には、時代に応じて新たに生まれた妖怪たちもきっとたくさんいることだろう。が、だからといって古きよき妖怪たちが消滅したとは限らない。いや、むしろ彼らは現代社会に適応し、生き生きと輝いているのではなかろうか。
……と、ここまで書いたところで、いつの間にか陽は沈み、あたりは夕闇に包まれている。そういえば、さっきからおんぎゃあ、おんぎゃあという声が窓の外から聞こえてくる。赤ん坊の泣き声だ。
ぼくはなんだか放っておけない気になってきて、見に行こうかと思いはじめる。が、すんでのところで思いとどまる。
―あの声は、本当に赤ん坊の声なのだろうか?
あたりには、妖怪たちの気配が色濃く漂いはじめている。