妊婦のホンネが、かくも愉快で感慨深いとは!

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

NINPU TALK with LiLy

『NINPU TALK with LiLy』

著者
LiLy [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784041025864
発売日
2016/01/23
価格
864円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

妊婦のホンネが、かくも愉快で感慨深いとは!

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

 あれほど「恋愛!」「セックス!」と連呼していたリリィとその仲間たちが、セックストークそっちのけでニンプトーク。そんな日が来るとはね……。感無量……と浸る前に、この現代女性のバイブルを書評せねば。

 女性のホンネを代弁するガールズトークエッセイ「××with LiLy」シリーズの文庫化が二〇一五年から始まり、妊娠出産編の『NINPU TALK with LiLy』がいよいよ登場。「×× with LiLy」は、自分にとっての唯一無二のオトコを本気で探そうとしている女たちのパッションや寂しさやプライドや欲望などぐちゃぐちゃな思いを、ひたすら正直に吐露し、同世代からの熱い支持を受けたシリーズだ。

 最初の親本が出たのは、北京オリンピックが開かれ、リーマン・ブラザーズが経営破綻し、iPhoneが発売された二〇〇八年。草食系男子という言葉の認知度が一気に上がったのもこの年で、そのカウンターとしての肉食系女子という言葉も、伴走するように市民権を得ていった。

 つまり、恋愛が一段と難しくなってきた空気の中で、周知の事柄と済ませてきた男女の問題を、リリィだけは果敢にマジメに、仲間たちと脳がすり切れそうになるほど考え、いつも軽いノリのトークをする体でみんながより幸せになれるよう啓蒙してきたのだ。

 先行の二冊では、恋愛や結婚やセックス、あるいは失恋や離婚やセックスレスが主なテーマだったが、『NINPU TALK with LiLy』では、ハネムーンから帰ってきたリリィがおなじみ秀美や樹里、玲子、純夜らに妊娠報告をするところから幕が開く。心と身体が次々と変化していくマタニティライフを追う形で、時系列のままお話は進んでいくのだが、リリィが書く以上、何かと美化されがちな妊娠から出産までの虚飾は次々と剥がされていく。

 たとえば、出産準備でどうしても必要な、女性のデリケートな部分がパカッと開く〈産褥パンツ〉を買うときの衝撃。愛の結晶を宿した妊婦特有の、ふくよかになっていく身体や黒ずんでいく乳首は、美しいものだと頭ではわかっていても納得しきれないショック。白眉は、人間であることを置き忘れてきたかのような出産現場の修羅場感。

 笑いなしには読めないのだが、すばらしい体験だと理解しつつも、生きる上で逃れられない間抜けさへのとまどいが率直に伝わってくる。だからこそ、ひとつの命が生まれてくる奇跡に触れたというだけでは説明できない、泣き笑いの感動がある。

 日本の性教育というのは貧しくて、最初に教わるのが「無防備にセックスしたら、精子と卵子が結合して子どもができてしまうから、コンドームなどで避妊すること」だ。私たちは、“愛し合う/セックスする”“セックスを楽しむ/子どもをつくる”“女でいる/母になる”といった、女の人生において大切なことを、いちいち二項対立のように捉えさせられる。そこにリリィは、異議を唱える。恋愛してセックスして子どもを産んで育てて、それはすべてひと続きのことだ。セックスを楽しむことといい母になることをうまく両立させればいいのに、と。

 本書では、ひと足早く母親になったことで一時期、リリィたちから距離を置いていた愛奈がグループに戻ってきた。いまや先輩ママ組の秀美と愛奈、ほぼ同時期に妊婦生活を送る玲子とリリィ、シングルの樹里と純夜というふうに境遇は分かれたけれど、六人はかえっていい距離の関係になっている。

 そう、置かれている立場が違えば、それぞれのホンネも少しずつ違うけれど、互いに自分の価値観を押しつけ合うことなく自由に語り合っているところがいい。私は出産したこともないし、もはやすることもないのだが、安心して彼女たちの仲間入りができるのはそのおかげ。純夜も言っているように〈それぞれの人生だよね。ないものを悔やむスタイルで生きれば、人生なんてあっという間に、悩みと悲しみで埋め尽くされる。あるものを楽しむスタイルでいかなきゃダメよ〉と、シリーズを通してひしひしと思う。

KADOKAWA 本の旅人
2016年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

  • このエントリーをはてなブックマークに追加