桜川和樹は 雑誌『Maybe!』の我が道を行く姿勢に 「コンテンツ大量生産の時代」への挑戦を感じた

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Maybe! Vol.1

『Maybe! Vol.1』

著者
小学館 [著]
出版社
小学館
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784091037817
発売日
2016/06/16
価格
880円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

桜川和樹は 雑誌『Maybe!』の我が道を行く姿勢に 「コンテンツ大量生産の時代」への挑戦を感じた

[レビュアー] 桜川和樹(「NAVERまとめ」編集長)

桜川和樹

 WEB編集に10年余り携わってきて思う。コンテンツビジネスは流通の力次第だと。コンテンツが良くても届かなければないのと同じ。日々、無尽蔵に生成されるコンテンツに負けず、より多くの人に届けるためには、いかにちゃんと読み手に届く流通網を構築できるかがカギだ。
 古巣の話でいうと、フリーマガジンとしては異例の100万部を発行したこともある『R25』は、時事問題の解説や著名人へのインタビューが、ビジネスパーソンの支持を受けたとされている。が、中にいたからこそ思うのは、コンテンツの力もさることながら、首都圏の主要な駅のラックを大量に押さえたことが大きい。首都圏のビジネスパーソンの主要動線に、多くのタッチポイントを持てなかったら、あのようなモンスター誌にはなれてなかった気もする。
 ネット以前、コンテンツの生産と流通のコントロールは、すべて媒体社が行っていた。編集部が生産したコンテンツを、販促部が流通させるという一貫した体制だ。
 ところがネット以降、この生産と流通の役割は分断される。媒体社が生産したコンテンツは、ヤフーニュースなどのポータルサイトを経由して届けられるようになった。前後の文脈やタイミングなどは関係なしに。コンテンツをどう見せるのかの「編成権」を、他者に明け渡した状態である。
 これにより何が起こったか。媒体社は自社コンテンツを見てもらうため、ポータルサイトに掲載されやすいコンテンツを作るようになった。ポータルサイトは、より多くの人に見てもらえるコンテンツを掲載するため、媒体社はその方針に合うコンテンツを生産する体制をますます加速させていく。そうしてネットの記事は「総花的」で「量産重視」なものに偏っていった。
 インターネットとは何だったのか。時間と空間を飛び越えて人々がつながり、情報を流通させることで、多様性や可能性を押し広げる存在ではなかったのか。数十年たってみれば、みんなが同じような話題を同じように消費している。ネットの可能性を信じた身としては悲劇でしかない。
 ネットの影響なのか、最近の雑誌の中にも「わかりやすくてすぐ使える」情報を載せるものが増えているように思う。雑誌が果たしてきた「偶然の出会い」を提供する価値は薄らいでいくんだろうか。
 そんな折、書店で見かけた小学館の女性向けカルチャー雑誌『Maybe!』に雑誌づくりの挑戦を見た。
 創刊号の特集は「恋愛ってなんだ?」と、これでもかというほどストレート。誌面をめくると、経験人数とファッションを比較した「経験人数ファッション図鑑」や、グラビアと小説をミックスさせた「魔法のからだ」など、挑戦的な企画が並ぶ。久しぶりに我が道を行く雑誌が誕生した、と感じた。
 正直、雑誌としてヒットするかといえば微妙だ。コンテンツ大量生産の時代に、「ニッチ」で「量より質」なものは埋もれやすい。ただ、総花的で退屈なネットにおいて、流通網を押さえた形で実現できればあるいは……とも思う。

 ***

『Maybe!』
2015年11月に創刊したファッション・カルチャー誌『This!』を、「もう少しだけ大人な内容」にリニューアル。誌名の由来は、「『たぶん』これが世の中の真実だと思われること」。第1号は6月16日に発売された。小学館。864円

太田出版 ケトル
VOL.32 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

太田出版

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