まだまだ知らない 夢の本屋ガイド 花田菜々子 ほか編

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まだまだ知らない夢の本屋ガイド

『まだまだ知らない夢の本屋ガイド』

出版社
朝日出版社
ISBN
9784255009636
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

まだまだ知らない 夢の本屋ガイド 花田菜々子 ほか編

[レビュアー] 長岡義幸(出版ジャーナリスト)

◆濃密な出会いを想う

 刑務所の服役者のために本を選ぶ神戸市の「GOKUCHU BOOKS」。子どものころ本読みの父親が監獄に収監され、差し入れできるのは現金と本だけと母親に聞かされた店主が、本を求める獄中の人向けにはじめたサービスだ。

 名古屋市のメガ書店内の奥でひっそりと営業する「秘密の本屋」。だが、特別な本があるわけではない。「表の本屋」と同じものを扱う。大型店の品揃(しなぞろ)えに「目が滑って」しまったお客の相談に乗りながら、本を薦めているそうだ。

 震災の影響で閉店した書店を惜しみ、利用者が立ち上げた熊本市の「書庵(しょあん) 道草」。震災の記憶を風化させないために、城の石垣に本を埋め込み、「熊<本>城=本の城」にしようと奔走する。

 他にも、亡くなった人の蔵書を見ながら書架に加えるべき本を遺族に提案する書店や閉店した老舗書店が復活する物語など、二十二の個性的な書店が登場。

 だが、種明かしをすると、これらの店は実在しない。書店員が思い描く空想の書店である。こんな本屋がやりたい、こういう読者と出会いたい、こうすれば本を買ってもらえるという書店人の願望を反映しているかのような内容だ。

 ありそうでなさそうな店ばかりだけれど、お客と濃密な関係を培う「夢の本屋」が身近にもありそうな気がしてきた。そんな希望がほの見える一書である。

(朝日出版社・1728円)

 企画・編集(協力)は北田博充・綾女欣伸・橋本亮二・斎藤綾・平野麻美。

◆もう1冊

 田口幹人編『まちの本屋』(ポプラ社)。市場が縮小し、ネット書店が台頭する中で、まちの本屋の存在理由を考える。

中日新聞 東京新聞
2017年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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