臨終の七不思議 志賀貢 著

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臨終の七不思議 志賀貢 著

[レビュアー] 藤田紘一郎(免疫学者)

◆医師が見つめる「瞬間」

 格差、不平等の時代だと世が嘆くなか、生きる全ての人に分け隔てなく与えられる不変の理があります。それが「死」です。でも実際、死への理解や準備ができている人は医師でも少数でしょう。

 私は弟の臨終に立ち会うことができませんでした。五十七歳の若さでひとり死を迎えた弟。喪失なくては成長なしと言いますが、送る方も送られる方も想像を絶する苦痛を伴うのは、臨終における不思議の一つかもしれません。そう嘆く私を救ってくれたのは、臨終の際に私の息子が弟の手を握り、最後の瞬間まで付き添ってくれていたことでした。

 私たち人間は、はるか昔から未知の死について考え、悩み、不安を抱えてきました。死ぬときに、人はどうなるのか。この本はそんな不思議で謎だらけの臨終という瞬間を見つめた作品です。

 数多くの死を目前にした人と向き合う著者の現役医師としての鋭い観察力、そしてひとりの人間としての優しく温かな眼差(まなざ)し。死にゆく人の目線と残された人の目線から語られる言葉は、私たちに臨終という瞬間がどんなものかを鮮やかに想像させてくれます。

 考えても、考えても、わからない「死」。しかし、こうして考え、問い続けることこそ、最愛の人や自分にも必ず訪れるその瞬間を、後悔なく豊かに迎えるための準備であるのだと気づかされました。

 (三五館・1296円)

 <しが・みつぐ> 1935年生まれ。医師・作家。著書『医者のないしょ話』など。

◆もう1冊 

 山田風太郎著『人間臨終図巻』(上)(中)(下)(角川文庫)。古今東西の歴史的人物九百余人の人生と臨終の様子を記録。

中日新聞 東京新聞
2017年4月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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