「紀伊國屋じんぶん大賞2020 読者と選ぶ人文書ベスト30」が発表 第1位は東畑開人『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』

レビュー

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「紀伊國屋じんぶん大賞2020」ベスト30を発表

1位 『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』東畑開人(医学書院)

【玉本千幸・新宿本店】
 ひょんなことから沖縄の精神科デイケア施設で働くことになった心理士。そこではただ「居ること」が求められた! なにもしないことはこんなにも難しい。施設のスタッフやメンバーたちとの触れ合いの中でケアとセラピーの関係に思いをはせる。普段われわれが無意識的に感じ、うまく距離をとっている他人との関係性。日常から少しはみ出た人たちと出会い、自分の日常でのあり方にも疑問をもつ。ほのぼの、笑い、そして感動もありのエンタメ冒険小説(?)心理学関係者、デイケア・サービスに興味がある方はもちろん、なんだか最近せかせかして疲れているなと感じるあなたへ贈る癒しの本です。

【選考委員 小山大樹】
 その思想的な潜在性は予感しながらも、「ケア」という営みが一体どういうことなのか、実はよくわかっていなかった。その実際は「ただ、いる、だけ」。実在を肯定し保護するところの「ケア」は、現代社会の大きな課題であるフェミニズムをはじめ、グレタ・トゥンベリさんや伊藤詩織さんらが強いられている“一人での闘い”などを考える時、重要な鍵概念だと思う。

【選考委員 池田匡隆】
 デイケア施設で働く心理士の著者が、「ただ座っているだけ」の居心地の悪さと、そこに隠された意義を、一人の人間として捉えた傑作。人間の価値が「生産性」で測られる時代になった。私たちはみな何処かの弱者。“誰かの自由を犠牲にして、自分たちだけが自由になることはできない”(高橋源一郎)

2位 『「差別はいけない」とみんないうけれど。』綿野恵太(平凡社)

【木村麻美・新宿本店】
 「みんなが差別を批判できる時代」……世の中に存在する差別や差別をめぐる出来事について、いくつかの関連書をもとに論考された一冊。感情的にならずあくまでも淡々と書かれているのが印象的だ。「差別」と聞くと、なぜか遠い場所の言葉のような気がする。それはきっと「差別」について何も知らないからだと思う。だからこの本を読む。「知らなかった」でやり過ごしてしまわないように。

【選考委員 中島宏樹】
 「差別をやめろ」と声を荒げる人たちの、その目的はわかるけど、なんか言い方に引っかかる。正しいことばのはずなのに、その口調の強さに乗り切れない。そんなあなたが抱えてるかたちにならないもやもやは、きっと大事な何かを含んでる。優しい世界を求めるあなたに、寄り添ってくれる批評のことばがここにある。

3位 『在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活』荒木優太(明石書店)

【選考委員 生武正基】
 所属のない人間が研究成果を広く世に発表する、一昔前は困難であったことがネットの発達により現在は多くの人に開かれている。しかしオープンなはずの現代社会でも在野の研究者困難は多いのが現実。本書はその実例と可能性を提示する。この本を読んで「こんな自由なやり方もあるのか……」と著者達に続く在野研究者たちに期待したい。

4位 『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』北村紗衣(書肆侃侃房)

【選考委員 藤本浩介】
 フェミニズム批評の視点によって、作品鑑賞はもっと面白くなるということを鮮やかに、軽やかに実践した痛快な一冊。そのことを多くの読者に伝えるために選ばれたであろう、「不真面目」さという戦略は切実なものと思われる。大ヒット映画や著名作品など身近な題材から、一歩踏み込んだ問題に自然に導いてくれる。

5位 『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』小川さやか(春秋社)

【選考委員 林下沙代】
 香港に集まるアフリカ系交易人によってゆるやかに築かれた経済システムやセーフティネットは、「完全」を求め、「不確実性」をできるだけ排除しようとする既存のシステムと比べると、一見不完全で不確実性に満ちあふれたものに感じられる。しかしながら、「チョンキンマンションのボス」であるカラマをはじめとする、彼らのいきいきとした魅力あふれる描写には、どこか息苦しさを感じざるをえない私たちの世界を乗り越えていくための、なにか大きなヒントのようなものが、隠されているようにおもいます。

6位 『新記号論 脳とメディアが出会うとき』石田英敬・東浩紀(ゲンロン)

7位 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ(新潮社)

【選考委員 相澤哲洋】
 間違いなく2019年を代表する1冊。母と子の視点からイギリスの中学校生活が、抜群の観察力をもって描き出される。自分と他者、拒絶と寛容……子どもが日々のなかで向き合う問題は、個々の家庭の問題にとどまらず、その街の、その国の、そして世界の問題に否応なく接続していることを気づかせてくれる。

8位 『記憶する体』伊藤亜紗(春秋社)

【玉本千幸・新宿本店】
 きちんとメモをとれる全盲の女性、下半身不随なのに痛みを感じる男性。11人の障害者の声を集めるとそこには今までみたことのなかった体と記憶の不思議な世界がまっていた! 世界って、人って本当に無限大だと感じること間違いなし。読後は自分の体との関係についてしみじみと考えたくなります。

【選考委員 津畑優子】
 ボタンを留めるのに苦戦する幼い子を見守りながら、普段の生活で何気なく行っている行動は、経験を重ね記憶した体によるものなのだと思い至る。本書は、そんな個々の体に刻まれた記憶・時間性、そして体と心の不可思議な関係という迷宮に読者を誘う。私の体の私らしさは、どのように育まれてきたのか立ち返る契機を得た。

9位 『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』山下泰平(柏書房)

10位 『急に具合が悪くなる』宮野真生子・磯野真穂(晶文社)

【選考委員 松野享一】
 ポップな表紙と帯に誘われて、軽い気持ちで手に取って、そして読み進めていくうちに「急に具合が悪くなる」。読了後に動けなくなる本などそうそうあるものではない。生と死を巡る哲学者と人類学者の文字通り全身全霊の往復書簡を堪能して欲しい。

11位 『天然知能』郡司ペギオ幸夫(講談社)

【選考委員 中島宏樹】
 人間の知性が持っているダサカッコワルイ部分を「天然知能」と呼んでみることから始まる、人間知性の特異性とその可能性。外部という未来に開かれた知性のあり方が、損なわれようとしている私たちの思考をその天然さでもって導いてくれる。天然知能由来の、自由な知性を携えて。

12位 『数学の贈り物』森田真生(ミシマ社)

13位 『レンマ学』中沢新一(講談社)

【幸田一男・広島店】
 著者は大乗仏教の「華厳経」と最新科学を結びつけることにより、人の心の言葉にできない部分に光を当てる「レンマ学」を立ち上げた。そこで思い浮かぶのが、ウィトゲンシュタインの超有名な言葉「語りえぬことについては、沈黙しなければならない」。語りえぬこととは何だろう? それを探求する「レンマ学」の挑戦から目が離せない。

14位 『吉田健一ふたたび』川本直・樫原辰郎(冨山房インターナショナル)

15位 『文化人類学の思考法』松村圭一郎・中川理・石井美保(世界思想社)

【選考委員 中島宏樹】
 文化人類学という広くて深い器の中には、ブリコラージュによって集められた「野生の思考」たちがいっぱい詰め込まれている。「時間と空間を超える自由な想像力」が、日常的な疑問と抽象的な難問の間を自在に行き来する思考の筋道を、多彩に多様に準備してくれる。そんな文化人類学の思考法を少しのぞいてみませんか?

16位 『分解の哲学 腐敗と発酵をめぐる思考』藤原辰史(青土社)

【山田萌果・札幌本店】
 現代に生きるわたしたちは、古くなったものを捨て、新しいものを次々と購入する。そのため、「腐敗」や「分解」といった再生工程に目を向けることが少ない。「分解」を中心に据えた本書は、わたしたちの凝り固まった一方的で直線的な事物の据え方を柔らかくし、循環可能な円環的思考を提示してくれる。

17位 『かたちは思考する 芸術制作の分析』平倉圭(東京大学出版会)

【選考委員 藤本浩介】
 絵画や彫刻だけでなく、舞台やダンス、インスタレーションまでを含む芸術制作全般に関して、その内実をひたすら「かたち」そのものが持つ思考のあり方から読み解こうとする、精密で徹底的な批評集。抽象的な概念と具体的な「かたち」の間の、決してどちらか一方に還元されない、緊張感に満ちたせめぎ合いが全編にわたって持続する。

18位 『ネット右派の歴史社会学 アンダーグラウンド平成史1990‐2000年代』伊藤昌亮(青弓社)

【選考委員 野間健司】
 平成の日本が育ててしまった闇を正しく葬るために必読の労作。「右傾化」や「ネトウヨ」は他人事になりがちだが、彼ら自身の論理と多様なクラスタの相関図を内在的に描き出す本書のアプローチで、実は自分も近いところにいたのではないかと震撼させられた。

19位 『アリストテレス 生物学の創造』アルマン・マリー・ルロワ(みすず書房)

【選考委員 井村直道】
 生物学の巨人ダーウィン。彼の尊敬する二人の神々︱︱リンナエウスとキュビエは、老アリストテレスと比べれば単なる小学生に過ぎなかった。「生物学者アリストテレス」は自然界をいかに豊かに理解し、生物学を構想したのか。現代生物学者の手によって詳らかにされる進化論以前の生物学への流麗なる招待状。

20位 『時間は存在しない』カルロ・ロヴェッリ(NHK出版)

【選考委員 相澤哲洋】
 時間の流れはわたしたちに固有の「特殊な眺め」に過ぎないことを解き明かし、現代物理学の知見を感覚的に説明してくれる快著。時間をめぐる考察は、人間とは何なのかという問い(そして答え)へとたどり着く。

21位『西周と「哲学」の誕生』石井雅巳(堀之内出版)

22位『テーマパーク化する地球』東浩紀(ゲンロン)

23位『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』木澤佐登志(星海社)

24位『創造と狂気の歴史 プラトンからドゥルーズまで』松本卓也(講談社)

25位『食べたくなる本』三浦哲哉(みすず書房)

26位 『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』小熊英二(講談社)

【幸田一男・広島店】
 社会を「慣習の束」ととらえ、その起源と特徴を明らかにしてゆく。中でも「全体を規定している」という雇用慣行に力点が置かれている。本書を踏まえない「働き方改革」はありえないだろう。

27位『海を撃つ 福島・広島・ベラルーシにて』安東量子(みすず書房)

28位『精神病理学私記』ハリー・スタック・サリヴァン(日本評論社)

29位 『働く人のための感情資本論 パワハラ・メンタルヘルス・ライフハックの社会学』山田陽子(青土社)

【選考委員 津畑優子】
 ストレートに感情や考えをぶつけることを回避し、共感を示しつつ毒気を抜いたそれをそっと差し出すのが是とされる現代社会。ハラスメントや自殺はメディアで扱われるだけのものではなく、「普通に」働く私たちの日常と地続きの問題だ。働く人々の感情や生と死を考察する上で欠かすことのできない重要な書。

30位 『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』大木毅(岩波書店)

【佐藤高廣・カタロギングサービス部】
 第二次大戦の独ソ戦による戦争犠牲者はソ連で2700万人! ドイツで600万人以上。信じ難い数字です。ヒトラーとスターリン、二十世紀が生んだ最強・最悪とも言える独裁者二人による、惨憺たる戦争の実態が手に取るようによく分かります。

紀伊國屋じんぶん大賞2020の全ラインアップは公式サイトで!

「紀伊國屋じんぶん大賞」は、おかげさまで第10回目を迎え、今回も読者の皆さまから数多くの投票をいただきました。誠にありがとうございます。投票には紀伊國屋書店社内の選考委員、社員有志も参加いたしました。投票結果を厳正に集計し、ここに「2019年の人文書ベスト30」を発表いたします。
※2018年12月〜2019年11月(店頭発売日基準)に刊行された人文書を対象とし、2019年11月1日(金)〜 12月10日(火)の期間にアンケートを募りました。
※当企画における「人文書」とは、哲学・思想/心理/宗教/歴史/社会/教育学/批評・評論に該当する書籍(文庫・新書含む)としております。
※推薦コメントの執筆者名は、一般応募の方は「さん」で統一させていただき、選考委員は 選 、紀伊國屋書店一般スタッフは所属部署を併記しています。

紀伊國屋書店
2020年2月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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