美大生は究極のハイリスク・ノーリターン?『ピカソになれない私たち』著者・ 一色さゆりさんインタビュー

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ピカソになれない私たち

『ピカソになれない私たち』

著者
一色 さゆり [著]
出版社
幻冬舎
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784344035775
発売日
2020/03/04
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

美大生は究極のハイリスク・ノーリターン?『ピカソになれない私たち』著者・ 一色さゆりさんインタビュー

[文] カドブン

アート・サスペンス『神の値段』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞、2016年にデビューされた一色さゆりさん。待望の最新作は、アートと自分の将来について葛藤する四人の美大生を巡る青春小説。執筆されながら学芸員としても勤務を続ける著者に、メールでお話をうかがいました。

――まずは今作の、着想のきっかけを教えてください。

一色:私は昔、芸術大学の学生寮に住んでいて、そこでさまざまな変人奇人と出会いました。彼らを小説の題材にしたら面白いだろうな、と思ったのが着想のきっかけです。でも「事実は小説よりも奇なり」な点が多すぎて、小説にすると逆に嘘くさくなってしまい、結果的にまったく別の物語になりました。

――四人の美大生たちを群像形式で書いたのには何か狙いがあったのでしょうか。

一色:アートの魅力のひとつに、決められた答えがないという点があると思います。就職する、画家として自立する、大学に残る、美大生のゴールもいろいろです。むしろアートの良さは、個人が自由に出した答えを否定しない寛容さにあると思います。そういった多様性を表すには、群像形式が向いていると思いました。

――四人それぞれ個性的なキャラクターですが、モデルがいたりするのでしょうか。

一色:それぞれにモデルはいます。最初から決まっていたのは、「才能」というテーマを掘り下げるために、「才能がある子」と「才能がない子」を対比的に書くことです。そこで、才能があって他人の評価を気にしない望音と、才能がなくて他人の評価が気になって仕方ない詩乃、というキャラクターをつくりました。そのあと、いろんな能力があるのに制作意欲がない太郎と、才能のなさを知識で補おうと必死な和美、というサブキャラクターを置きました。ただ、最初はバランスよく配置したものの、書くうちに彼らの個性が変化していきました。たとえば望音はじつは「天才」ではなく、絵に没頭している自分を無意識に演じているのかもしれない、と途中で気がついたり。他のキャラに関しても、本作はそういった発見が面白かったです。

――書くのに苦労したキャラクターはいますか。

一色:比較的、書くのに苦労したキャラクターは、森本教授と望音です。逆に書きやすかったキャラクターは、太郎と助手。周囲にたくさんモデルがいたからです。とくに太郎のような人は、美大生に多いのではないかと思います。

――読んでいて、森本教授の厳しさに震えました。美大の教授ってこんな感じなのでしょうか。

一色:いえ、あくまでエンターテインメント小説として読んでいただければ幸いです(笑)。教授の森本はまったくの架空のキャラクターで、どこの美大を探してもあんな教員は見つからないと思います。だからリアリティを感じてくださったのなら、嬉しい限りです。というのも、「今ドキの若者」は受動的で与えられることに慣れているイメージがあり、森本のようなスパルタな教員像をでっち上げても、読者から不自然には思われないだろう、むしろその方が真実味を帯びるだろう、と意図的に設定したからです。実際は、放任主義の可瀬教授のようなタイプばかりだと思います。

――今作を書くうえで、特に大切にしたことはありますか。

一色:四人の描く絵の描写です。さまざまな事件やゼミ生同士のやりとりを通じて、彼らの絵がどう変化していくのかが、読者に分かりやすくストレートに伝わるように心がけました。彼らの絵を頭のなかで何度も描き直すのは、とても楽しかったです。

――デビュー作『神の値段』を始め、これまで美術ミステリを書いてこられた印象があります。小説のテーマとして、美術の面白さはどこにあると思われますか。

一色:美術作品は、時代背景や小ネタを知ると、その見え方が百八十度変わるものなので、ストーリーのフックになりやすいと感じます。また小説なら、時代背景や小ネタをうまく伝えられる気がします。

――次回作の構想があれば教えてください。

一色:次回作は、ロンドン、大英博物館で働いている天才美術修復士が、同館のコレクションに秘められたさまざまな謎を解いていく、というミステリです。読者が楽しくどんどんページをめくることができて、読み終えると芸術やイギリスの文化に少し詳しくなっているという一冊を目指しました。他にも、美術モノではない物語も含め、いくつか並行して執筆しています。

――今作の読みどころなど、読者にメッセージをお願いします。

一色:美術好きの方もそうでない方も楽しめるように工夫を凝らしたので、手に取っていただけると嬉しいです。

取材・文:編集部

KADOKAWA カドブン
2020年6月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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