『ビートルズ 創造の多面体』
- 著者
- 高山 博 [著]
- 出版社
- アルテスパブリッシング
- ジャンル
- 芸術・生活/音楽・舞踊
- ISBN
- 9784865592665
- 発売日
- 2022/11/25
- 価格
- 2,640円(税込)
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<書評>『ビートルズ 創造の多面体』高山博 著
[レビュアー] 篠崎弘(音楽評論家)
◆魅力の楽理的分析から 一歩先へ
解散から既に五十二年、ジョン・レノンの死から四十二年、ジョージ・ハリスンの死からも二十一年がたつというのに、ザ・ビートルズの残した楽曲は未(いま)だに人々の心をとらえて離さない。なぜなのか。彼らの出現は世界の音楽シーンにどんな衝撃を与えたのか。作品のどこが新鮮だったのか。
彼らの楽曲や手法に楽理的な分析を加え、それらの謎を解き明かそうと試みたのが本書だ。「ブルーノート」の巧みな使い方、曲の冒頭のインパクト、長調と短調の混在、サビの劇的な転調、コードの低音下降、通奏低音や四度のハモリなどの効果的な使用、英国の伝統音楽トラッドの様々(さまざま)な旋法の導入、クラシックの要素の導入など、独自性が次々に指摘される。巻末には音楽用語の解説や楽曲構造の解説図、コード進行表などが収められて理解を助ける。
ただし、単なる音楽理論の本ではない。ビートルズが黒人音楽や世界の伝統音楽とどう出会い、どう消化したのかもさらに大きな文脈で語られる。ロックンロールの誕生、トラッドや米国のカントリー、モダンフォーク、サイケデリックとの出会い。彼らが二十世紀の音楽史をそのまま体現していたアーティストだったことがわかる。プロデューサーのジョージ・マーティンの力も借りて、彼らは当時の録音技術やアイデアの最先端にも立った。
さらにジョンとポールの曲の特徴や二人の関係の変化、バンドの成熟とソロアーティストとしての歩みも伝記風につづられる。同時代のボブ・ディラン、ティモシー・リアリー、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソン、オノ・ヨーコ、インドの宗教家たちとの関わりや、作詞に深い影響を与えた『鏡の国のアリス』やマザー・グースの世界も描かれる。
つまりビートルズを描いた向こうに透けて見えるのは彼らの時代の精神史だ。楽理的な分析の一歩先を目指した著者の志がうかがえる。
なお本書は、音楽ストリーミングサービスなどで、文中に紹介される楽曲やフレーズを実際に聴きながらお読みになることをお勧めする。
(アルテスパブリッシング・2640円)
作曲家/著述家。著書『ポピュラー音楽作曲のための旋律法』など。
◆もう1冊
高山博著『ビートルズの作曲法』(リットーミュージック)