元刑事で私立探偵。シングルマザー。個性派探偵の活躍、再び!

エッセイ

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

探偵は田園をゆく

『探偵は田園をゆく』

著者
深町秋生 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334915124
発売日
2023/02/22
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

深町秋生は山形の恥

[レビュアー] 深町秋生(作家)

 探偵を自分の地元山形で活躍させたらどうだろう。

 コンクリートジャングルでもなく、きらびやかなネオン街でもない。フィリップ・マーロウは「卑しい街をゆく孤高の騎士」だったが、「卑しい田舎をゆく孤高の騎士」にしたら、わりと書かれ尽くされた探偵小説の世界でも、けっこう斬新な作品になるのではと思ったのだ。

 自分がもっとも好きな作品に、ジョー・R・ランズデールの「ハップ&レナード」シリーズがある。後にテレビドラマにもなったテキサスの冒険小説で、無職の男ふたりが田舎で大暴れする話だ。ユーモアがふんだんに盛り込まれながらも、都会とは異なるジットリとした“悪魔のいけにえ”的な怖さが描かれている。あの暗さを書きたかった。

 山形はいいところだ。メシも酒もうまい。なにより治安がいい。ややこしい事件はあまり起きないので、県警の検挙率は全国トップクラスだ。人はまあまあ穏やかで、芋煮とラーメンのことになると目の色を変えるが、だいたいシャイで人も悪くはない。農村部は鍵をかける習慣が今でもないため、県警が口をすっぱくして「家に鍵をかけよう」と啓蒙活動をやるほどだ。大変のどかな土地であって、探偵が割って入るような隙などなさそうに見える。

 しかし、長く住んでいれば、表面化していないだけの問題がいくつも横たわっている。濃密すぎる人間関係のおかげでマルチ商法がはびこったり、ある一族だけにカネと権力が集中していたり、せっかくの移住者を安いカネで使い捨てるといった暗い実態も見えてくる。

 地方のしみったれた問題が描かれつつ、シングルマザーの元刑事の探偵と相棒のヤンキー兄ちゃんがカラッと大暴れする長編だ。地元を手放しで褒#ほ$め讃#たた$えたりはしない。「深町秋生は山形の恥だべ」といわれる覚悟で書いた。ご期待ください。

光文社 小説宝石
2023年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク