『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
学びから実践へ。「マーケティングの樹海」から抜けだし、仕事に活かす考え方と基礎知識
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
マーケティングには、どこかスマートできらびやかなイメージがあるかもしれません。しかし、実情はまるで違うと指摘しているのは『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(西口一希 著、日本実業出版社)の著者。スマートどころか、そこは鬱蒼と広がり続ける「樹海」そのものだというのです。
つまり、さまざまなツールや方法論が絡み合って樹木や雑草となり、その先の道筋を見えなくしているということ。そのため周到な用意をせずしてそこに足を踏み入れてしまえば、ゴールはもとより、自分がいる場所さえも見失ってさまようことになってしまう可能性があるわけです。
それはまさに、「樹海」に迷い込んでしまったかのような状態。では、そこに迷い込んでしまわないようにするためには、なにを意識してどのように対処すればいいのでしょうか?
「マーケティングの樹海」を抜けだすためにもっとも大切なのは、流行りのツールや具体的な理論を覚えるよりも、マーケティングもふくめた「ビジネスの原則」を理解しておくことです。
「ビジネスの原則」と「マーケティング」の関係について構造的に理解し、「ビジネスを向上させるためには、お客さまに何が必要なのか」を学ぶことで、「マーケティングの樹海」を抜けだし、ビジネスの世界を旅するコンパスとなって道筋を示してくれるのです。
そこで、「マーケティングの樹海」を抜けだすためのコンパスと地図をまとめる目的で、この本を著しました。(「はじめに」より)
著者によればそんな本書は、マーケティングを実際のビジネスで使えるようになるための「コンパスと地図」。また同時に、ビジネスパーソンにとっての入門書でもあるのだそうです。
具体的には、まず「なぜマーケティングが難しくなっているか」について原因と現状をひも解き、次いでマーケティングが対象とすべき「ビジネスの原則」、創出すべき価値、ブランディング、マーケターになるために必要なことなどを多岐にわたって解説しているのです。
だからこそ全体を通じ、マーケティングをシンプルかつ構造的に理解することができるということ。
きょうは第1章「なぜ、多くの人が『マーケティングの樹海』に迷い込んでしまうのか?――マーケティングをめぐる、さまざまな誤解」に焦点を当て、「結局、『マーケティング』とは何なのか?」という項目のなかから基本的な考え方を確認してみることにしましょう。
「そもそもビジネスはどう成り立っているか」から考える
冒頭でも触れたように、マーケティングの樹海から抜け出し、ビジネスの世界を自由に旅するために必要なのは、道筋を示してくれる「コンパス」。細かく広がった手法やツールにばかり振り回されてしまうと、いつまでも樹海で迷い続けることになってしまいます。したがって、目先の手法を追うのではなく、根本的な原則を理解する必要があるのです。
そこでまずは、マーケティングの共通キーワードである「顧客」「価値」「創造」をしっかりと認識するべき。その価値を理解するために、著者はこれらのキーワードを次のように並べています。
マーケティングとは「顧客」に向けて「価値」を「創造」することである。(45ページより)
たしかにこう考えると、シンプルに理解することができそうです。しかし、そもそも「価値」とはなんなのでしょうか?
ここはマーケティングにとっても、どのようなビジネスにとっても重要なポイント。だからこそ、まずは「ビジネスがどう成り立っているのか」ということから考えてみる必要がありそうです。
当然のことながら私たちは、仕事の報酬としての対価をいただくために働いています。そして、その対価をいただくためには、お金を払ってくれる人が必要。いわば、「お客さま」がいてこそ、ということになるわけです。
だとすれば、お客さまに「お金を払ってもいい」と思ってもらえるなにかをつくり出す必要性が生じます。すなわちそれは、“お客さまに価値を見出してもらえるようなプロダクト(商品やサービス、体験)”をつくるということ。
そして、そのために必要なことをすべてやるのがマーケティングだということです。(44ページより)
マーケティングとは「お客さま」と「価値」について考えること
こうした考え方に基づき、著者はマーケティングの定義を次のようにまとめています。
【筆者のマーケティングの定義】
お客さまのニーズを洞察し、お客さまが価値を見いだすプロダクトを生みだすこと。さらに、その価値を高め続けて継続的な収益を生みだし、その収益を再投資して新たな価値をつくり続けること。(46〜47ページより)
いわばマーケティングは、「経営」に直結しているわけです。
そして重要なのは、「どんなお客さま(WHO)」に、「どんなプロダクト(WHAT)」を届けて「価値」をつくるのかという「WHOとWHATの組み合わせ」。
それ以外のいわゆる4つのPのプロモーション(メディアや広告、クリエイティブ手法)やプレイス(販売チャネルや販売方法)、プライス(価格設定)をめぐる話は、WHOとWHATの組み合わせを実現するための手段や手法(HOW)にすぎません。
その手段は時代とともに変わり、廃れてしまうこともあります。(46ページより)
そのため、まずは目先の手法に踊らされることなく、WHOとWHATをしっかりとらえることが必要。
WHOとWHATをきちんととらえれば、やること(HOW)も自然に見えてきて、「マーケティングの樹海」でさまようこともなくなるというわけです。(46ページより)
「マーケティングに興味を持ちつつも、どこからスタートしたらいいのかわからない」という方、あるいは「マーケティングのことはわかっているつもりだったけれど、やればやるほどわからなくなっている」という方にとって、本書はきっと役立ってくれるはず。
専門用語を極力使わずシンプルに解説されているので、「マーケティングの樹海」から抜けだすためのツールとして役立ってくれるはずです。
Source: 日本実業出版社