天才ベートーヴェンがなぜかフラれ続けた理由、女性目線で検証してみました!

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

名曲の裏側

『名曲の裏側』

著者
渋谷 ゆう子 [著]
出版社
ポプラ社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784591177907
発売日
2023/05/11
価格
979円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

天才ベートーヴェンがなぜかフラれ続けた理由、女性目線で検証してみました!

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

クラシック音楽は近づきがたいーー。そんなふうに感じていらっしゃる方もいらっしゃるのではないでしょうか? そこで『名曲の裏側: クラシック音楽家のヤバすぎる人生』(渋谷ゆう子 著、ポプラ新書)の著者は、周囲の人に“クラシック音楽の困りごと”を尋ねてみたのだそうです。そこで判明したのが、以下の5点。

1 どの曲も同じに聞こえる

2 曲が長すぎる

3 外国語の歌詞がわからない

4 曲名の数字や言葉が意味不明

5 新曲が出ない

(「はじめにーークラシック音楽を堅苦しく感じさせる5つの理由」より)

たしかにそうかもしれません。しかしその一方、大人になると「クラシックを聴いてみたいな」というタイミングがどこかで訪れたりもします。ただ、やはりハードルが高いのも事実。そこで、本書の出番となるわけです。

この本では、まずは作曲家に焦点を当てて、人となりを知ってみてはというアプローチでクラシック音楽をご紹介しています。

それもかなりゴシップ満載、下世話な話ばかりを集めてみました。恋愛騒動や不倫沙汰など、およそ他のクラシック音楽入門では扱わない分野を、ワタクシ不肖渋谷が女性目線でフォーカスしております。作曲家の皆様、本当にすみません。(「はじめにーークラシック音楽を堅苦しく感じさせる5つの理由」より)

個人的には、あえて“女性目線で”としている点にもおもしろさを感じました。そんな本書のなかから、きょうは「名曲はフラれ続けたからこそ生まれた!? 生涯独身、恋愛不遇のベートーヴェン」をピックアップしてみたいと思います。

情熱に満ちた破天荒な人生

音楽史上もっとも有名な作曲家といえば、音楽室に飾られていた気難しい表情の肖像画も印象的だったルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。「第5(交響曲第5番)」と聞けば🎵ジャジャジャジャーンというメロディが頭に流れるかもしれませんし、「第9(交響曲第9番)」は日本の年末に欠かせない風物詩にもなっています。

しかしプライベートに目を向けてみれば、難聴に悩まされたことで有名な彼は、愛する女性にことごとくフラれ続けた人物でもあったのでした。

そもそも、1770年にドイツのボンで生まれたベートーヴェンの人生には、そのスタート時点で不穏な空気が漂っていました。歌手でアルコール依存症の父親のせいで生活は困窮し、そんな父親から才能と収入をあてにされていたのです。しかし、それは音楽的才能があったことの証明でもあるはず。

また大きな情熱と行動力の持ち主でもあり、16歳のときには、当代きっての大作曲家であるモーツァルトに会うため、ドイツからオーストリアのウィーンまで行ったりしています。そしてハイドンにも才能を認められたこともあって、1792年にはウィーンに移住し、作曲家への道を開いていきます。

そんなベートーヴェン、このウィーンでは第5番「運命」や「第九」をはじめとしたオーケストラ楽曲やピアノソナタなど数多くの素晴らしい作品を残した。気難しく変わり者で気分屋の性格が災いし揉め事も多発。

ウィーンでの引っ越しは70回以上にも及び、半年に一回は引っ越ししている計算になる。

度重なる移転の理由は、ハチャメチャな生活にあった。引っ越す、引っ越さない、行くところがないなどと騒ぎ、友人や近隣を巻き込んでの騒動に発展したりもする。

当時ピアノや大量の楽譜と一緒の引越しは大変なことだった。(16ページより)

そんななかで作曲を続けるも、20代後半のころにはすでに難聴の気配があり、40代のころにはまったく聞こえなくなってしまうことに。

さらには大量の飲酒のせいで体じゅうが病でむしばまれ、交響曲第10番を完成できないまま、1827年に56歳でなくなったのでした。(14ページより)

恋愛ではいつも同じの「猪突猛進自爆型」

そんなベートーヴェンは、数々の恋愛遍歴でも有名。好きな人ができると相手に曲を贈り、熱烈にアプローチ。しかしいつもフラれてしまうため、生涯独身でした。

あるときなど、一度フラれた女性が結婚し、のちに未亡人になってから懲りずに再度アプローチしたのだとか。

しかも「尊敬の念しかございません」とていねいな返事をもらったにもかかわらず、決して諦めなかったのだそうです。_尊敬の念しかございません」が「男としては見られません」という意味だということは男でさえ理解できますが、ベートーヴェンにそれはわからなかったようです。

ベートーヴェンの妄想的恋愛突進自爆はいつも同じパターン。

熱烈な恋に落ちて、手紙や曲を贈りまくる。さらには自分の友人に宛てて「もうめちゃくちゃ可愛い子がいるんだがww(意訳です)」と手紙を送る。もう素晴らしく有頂天な感じだ。情熱的で猪突猛進的な性格が恋愛に強烈に表れる。そういう強引さが時として魅力とも思えるが、結局はフラれてしまう。(17〜18ページより)

30歳を過ぎてもその勢いは衰えず、次は自分にピアノを習いにきた14歳のジュリエッタに魅了されます。有名な「月光ソナタ」は、この彼女に贈ったもの。(17ページより)

テレーゼさんに「エリーゼのために」?

そして40歳を過ぎたころには、友だちの紹介で知り合った28歳のテレーゼに心を奪われるのですが、このときつくられたのがピアノ曲「エリーゼのために」。しかし、テレーゼさんに贈った曲がなぜエリーゼ宛てなのでしょうか?

実はこの曲、楽譜にドイツ語でタイトルが書かれていたのだが、その字があまりに汚なすぎて読めなかったのだ。なんかよくわからないけどエリーゼって書いてあるっぽい、という雰囲気で後世にこのタイトルで知られるようになってしまった。

自分の名前のはずだけど汚くて読めないってどういうことなの、と私が贈られたほうなら思う。非常に美しいピアノの曲だが、これを聴くと、ああやっぱりな、フラれるはずだわ、字が汚いだけじゃなく、と現代でも女性たちの間でそのナルシストぶりがネタにされたりしてしまう。(19ページより)

ベートーヴェンは紛れもなく天才です。しかし、この曲を贈られた女性の気持ちになってみると、やはり女心には響くものがなかなかったのだろうなと著者は感じるのだそうです。

何度も繰り返される同じフレーズが私に向いているようには感じない。キミが好きだよ、こんなに好きだよ、美しいキミを思う僕の心はこんなに激しいんだよ、としつこいくらいに繰り返す。いや、こっち見ろ、である。女性からすれば自分の顔がそこに見えないのだ。表現されているのはベートーヴェン自身の思いだけ。女性の側からしたら、それが一番受け入れ難い。そんな相手とは困難を乗り越えて共に生きようとは思えない。(17〜18ページより)

だから、いつもフラれることになったのだと解釈しているわけです。たしかに女性ならではの視点ですが、こうして思いを巡らせてみることもまた、クラシックを聴く楽しみのひとつかもしれません。(18ページより)

紹介されている音楽をQRコード経由で聴くこともできるので、読み進めるなかでふっと沸いた好奇心を満たすこともできるはず。

そんなことを繰り返しているうちに、クラシックは少しずつ、でも確実に身近なものになっていくことでしょう。この週末、本書のなかから気になる作曲家や気になる曲を見つけてみてはいかがでしょうか?

Source: ポプラ新書

メディアジーン lifehacker
2023年6月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク