辻村深月が描く「今の時代」の青春小説

インタビュー

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辻村深月が描く「今の時代」の青春小説

[文] カドブン

2020年のコロナ禍の中高生を描いた『この夏の星を見る』が話題を呼んでいる。
全国の中高生が離れた場所から同じ星を見て繋がっていく、という青春小説はいかにして生まれたのか。辻村深月さんにお話を伺いました。

取材・文 編集部
撮影 干川修

辻村深月が描く「今の時代」の青春小説
辻村深月が描く「今の時代」の青春小説

■『この夏の星を見る』辻村深月インタビュー

――『この夏の星を見る』執筆のきっかけを教えてください。

 青春小説を、というリクエストが連載する予定の新聞の担当者からあって、漠然と何かの部活ものなどがよいかも、と思っていたのですが、その後、コロナ禍が始まりました。今の時代の青春小説を書く、と考えた時にコロナ禍一年目である2020年の中高生を主人公にしたいと考え、『三密』を回避してできる部活として天文部を選びました。

――茨城、渋谷、五島列島という舞台設定について、どのように決められたのでしょうか。

 天文部を書くにあたって取材でお世話になった学校が茨城県にあったので、まずは茨城県を舞台に。コロナ禍で都会として影響を受けた土地として渋谷を、三つ目の五島列島は星がきれいに見られる場所として選びました。

辻村深月が描く「今の時代」の青春小説
辻村深月が描く「今の時代」の青春小説

――コロナ禍での執筆になりましたが、学校や天文台の取材について、エピソードがあればお聞かせください。

 取材でお世話になった生徒さんたちが天文や地学関係のことにとても詳しいので、さぞ理系の成績がいいんだろうな、と思っていたら、「進路は文系の学部を考えています」とか「理科の成績は悪いです」と答える方も多くいて、驚くと同時に「でも好きだからやってます」と仰っていたのが印象的でした。私たちはつい、学校の成績とか、将来のためとか、それを何のためにやるのか、ということに重きを置きがちだけど、学びってそんな狭い範囲のことではないんですよね。「楽しいからやる」「好きだからやる」の軽やかな強さに圧倒される思いがしました。

――『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の脚本も担当されていますし、お名前にも「月」の字が含まれています。もともと宇宙や天文への興味はおありだったのでしょうか。

 映画ドラえもんの脚本ではドラえもんたちと月に行き、そのための調べものや取材もかなりしましたが、逆に言うと、私にわかるのは月までで、そこから先はほぼ知識がありませんでした。今回題材に選んだことでだいぶ詳しくなって、星の名前や方角がわかるようになったのがとても嬉しいです。

辻村深月が描く「今の時代」の青春小説
辻村深月が描く「今の時代」の青春小説

――2020年という特定の年代を設定したことで、小説に変化はありましたか?

 普段は十代の物語を描く時に、自分の記憶の教室に戻る、という感覚があるのですが今回は、現代の子たちを追いかける、という思いの方が強かった気がします。あと、これまで、大人の無理解に傷つけられた子どもたちの話を多く書いてきたからこそ、今作では、2020年という年の大人をちゃんと信じてみたかった。実は、大人に贈りたい話でもあるんです。

――今回、発売記念のグッズ「月と星のネックレス」「単行本ポーチ&スマホストラップセット」も作らせていただきました。どんな方におすすめでしょうか。

 ネックレスの『月』は、筆名に入っていることもあって、私も普段からすごく大事にしているモチーフなんです。月に思い入れがある方、私がそうしているように、お守りのように持ってもらえたら嬉しいです。
 サコッシュは、本体が空、紐が月明かりのイメージで配色を選びました。天体観測のような夜のお出かけにもピッタリだし、単行本がちょうど入る大きさなのも嬉しく、ぜひ、皆さんにあちこちにつれていってもらいたいです。

――『この夏の星を見る』刊行に先立ち、ガイドブック『Another side of 辻村深月』を企画させていただきました。『Another side~』の読みどころや、『この星』刊行に与えた影響などがあれば教えてください。

 想像以上にこれまでの自分の集大成のような本に。
 刊行の順番など、自分の中でも混乱することがあるので、私の仕事場にも辞書のように置いてあり、「あれ、この時どうだったっけ?」とめくったりしています。
『この星』のスピンオフ短編小説、「薄明の流れ星」は、コロナ禍前の凛久と亜紗の合宿の話で、最初、展開をどう膨らませていいかわからなかった時に、主人公を凛久にしよう、と思った瞬間、視界がぱあっと晴れるように誕生した話でした。『この星』の前日譚ですが、本編を読み終えた方が読んでも、きっと発見と、エピローグをもうひとつ読んだような読後感があるんじゃないか、と思っています。

――本が刊行されてから一か月ほどですが、反響などありましたでしょうか。

 嬉しかったのが、2020年を経験してきた皆さんが、「彼らともう一度、あの年をやり直した気がします」と言ってくださったこと。
 小説は映像があるわけではないのに、それでも同じ星を見た、と思ってくださったこと、この話を書いてよかったと、心から感じています。

■プロフィール

辻村深月が描く「今の時代」の青春小説
辻村深月が描く「今の時代」の青春小説

辻村深月(つじむら・みづき)
1980年2月29日生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で直木三十五賞を受賞。18年には『かがみの孤城』で本屋大賞第1位に。主な著書に『凍りのくじら』『スロウハイツの神様』『ハケンアニメ!』『島はぼくらと』『朝が来る』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『噓つきジェンガ』などがある。

■書籍紹介

辻村深月が描く「今の時代」の青春小説
辻村深月が描く「今の時代」の青春小説

この夏の星を見る
著者 辻村 深月
発売日:2023年06月30日

この物語は、あなたの宝物になる。
亜紗は茨城県立砂浦第三高校の二年生。顧問の綿引先生のもと、天文部で活動している。コロナ禍で部活動が次々と制限され、楽しみにしていた合宿も中止になる中、望遠鏡で星を捉えるスピードを競う「スターキャッチコンテスト」も今年は開催できないだろうと悩んでいた。真宙(まひろ)は渋谷区立ひばり森中学の一年生。27人しかいない新入生のうち、唯一の男子であることにショックを受け、「長引け、コロナ」と日々念じている。円華(まどか)は長崎県五島列島の旅館の娘。高校三年生で、吹奏楽部。旅館に他県からのお客が泊っていることで親友から距離を置かれ、やりきれない思いを抱えている時に、クラスメイトに天文台に誘われる――。
コロナ禍による休校や緊急事態宣言、これまで誰も経験したことのない事態の中で大人たち以上に複雑な思いを抱える中高生たち。しかしコロナ禍ならではの出会いもあった。リモート会議を駆使して、全国で繋がっていく天文部の生徒たち。スターキャッチコンテストの次に彼らが狙うのは――。
哀しさ、優しさ、あたたかさ。人間の感情のすべてがここにある。

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KADOKAWA カドブン
2023年07月28日 公開 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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