佐藤優さんが明かす、いまこそマルクスの『資本論』を読むべき3つの理由

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なぜ格差は広がり、どんどん貧しくなるのか?『資本論』について佐藤優先生に聞いてみた

『なぜ格差は広がり、どんどん貧しくなるのか?『資本論』について佐藤優先生に聞いてみた』

著者
佐藤優 [監修]
出版社
Gakken
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784054068810
発売日
2023/06/29
価格
1,589円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

佐藤優さんが明かす、いまこそマルクスの『資本論』を読むべき3つの理由

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

今から150年ほど前、ドイツ生まれの経済学者で哲学者のカール・マルクスはその著書『資本論』で、労働者が悲惨な状況に置かれる資本主義というシステムを詳細に分析し、資本主義の抱える根源的な問題点を論理的に説明してみせました。

このマルクスの理論の影響下で1917年にロシア革命が起き、資本主義社会のアンチテーゼとして社会主義国家が誕生。世界各地に革命は拡散し、東欧諸国、中国や北朝鮮、ベトナム、キューバなど多くの社会主義国家が樹立しました。(「はじめに」より)

なぜ格差は広がり、どんどん貧しくなるのか?『資本論』について佐藤優先生に聞いてみた』(佐藤 優 著、Gakken)の著者は、マルクスの『資本論』についてこう説明しています。

なお、こうした動きに危機感を持ったのが、資本主義体制の国(西側諸国)の政治家や資本家たち。「労働者をこのまま酷使し、低賃金で働かせたら、彼らが反旗を翻してロシアのように社会主義革命が起きるのではないか?」という恐怖心から、資本主義体制に社会主義的な要素を取り入れた「修正資本主義(=ケインズ経済学)や社会民主主義的な考え方が生まれたのです。

前者においては、マルクスが問題視した失業の問題を積極的に市場に介入して雇用を創造し、労働者に仕事を与えることで解決しようとしたわけです。また後者においては、労働者に失業保険や年金、医療保険などの保護を与え、労働者から革命を起こそうという気持ちを削ぐことに成功しました。

これは日本社会も同じです。30年前のバブル崩壊前の日本では、少なくとも日本型資本主義(日本型社会民主主義と言い換えても良いでしょう)が機能していました。

年功序列や終身雇用を保障し、労働者に手厚い社会保障を与える日本の社会システムは、世界で一番成功した社会主義とまで言われました。(「はじめに」より)

しかし時代は流れ、1991年にソ連が崩壊すると、「社会主義=失敗した理論」「マルクス=時代遅れの思想家」という風潮が強まることに。そしてバブル崩壊後の失われた30年間には、政府が市場に干渉せず放任することで国民に最大の公平と繁栄をもたらすと信じる「新自由主義」的な考えが台頭してきたのです。

著者によればこれは、過度な社会保障や福祉・富の再分配は政府の肥大化を招き、企業や個人の自由な経済活動を妨げると批判するもの。社会主義が敗北し、資本主義の一人勝ちになった結果、生まれた現象だといいます。すべてを市場の自由競争に任せればうまくいくという「市場原理主義」においては、150年前にマルクスが分析した資本の剥き出しの暴力性が極めて残酷な形であらわになります。

ソ連などの社会主義国家が存在したときは、革命をおそれて資本家や国家は労働者をある程度大事にしましたが、社会主義が廃れた今では、なにも恐れるものがありません。

労働者の権利を次々と奪い、より安い賃金で働かせて徹底的に搾りとっても何ら問題はない……。

そんな歯止めのきかない資本の残酷な論理がグローバリゼーションとともに日本を始めとする世界を席巻し、それゆえ、格差社会の拡大やワーキングプア、過労死、環境破壊などの諸問題が私たちの目の前にリアルな形で出現したのです。(「はじめに」より)

したがって、こうした資本主義のシステムに食い殺されないためには、マルクスの思想にいま一度立ち返り、資本主義が本質的に抱える問題を学ぶ必要がある。そんな考えから、著者は本書を著したわけです。

そんな本書のなかから、きょうは「『資本論』を今読まなければならない3つの理由」に焦点を当ててみましょう。

1:「お金」か「命」かで、「命」を選べるようになる

「過労死寸前になりながらも、毎日残業にいそしんでいる」というような状況にある人は、いますぐ「逃げる勇気」を持つべきだと著者は主張しています。「会社を辞めたら生活に困る」と思っている方には、「『お金』と『命』のどちらが大切ですか?」と問いたいとも。

たしかに会社を辞めたとしたら、その先のお金の問題が気にかかってしまうかもしれません。しかし実際には会社を辞めても失業保険がありますし、最悪の場合、生活保護を受給すれば生きていくことはできます。なのにそうできないのは、資本の論理に洗脳されているからにすぎないというのです。

そして、だからこそ『資本論』が意味を持つわけです。つまり『資本論』を学ぶことで、資本家(経営者)がいかに巧みに労働者から労働力や、あるいは心まで搾取しているかがわかるというわけです。(10ページより)

2:人間らしい働き方が見えてくる

「仕事にやりがいを感じられない」「毎日会社に行くのが憂鬱だ」というような悩みを抱えている方は少なくないでしょう。とはいえ、そんなことを会社の上司に話してしまったとしたら、社会人失格のレッテルを貼られてしまうことになるかもしれません。

しかし、おかしいのは周囲の人間や社会のシステム、すなわち資本主義体制そのものなのではないかと著者は述べています。

『資本論』を読むことで、いかに現代人が労働の喜びから「阻害」されているかがわかります。働くことは本来忌むべきことではなく、自己実現を達成するための楽しいことなのです。(11ページより)

いいかえれば、人間らしい働き方を見つけるヒントを、『資本論』が示してくれるということです。(10ページより)

3:自然と人間の関係を見なおせる

際限のない利潤の増殖を目指す資本の論理は、人間からだけでなく自然からも搾取・略奪を行うもの。経済成長至上主義のもと、このまま地球からレアメタルなどの天然資源を採掘し、化石燃料を燃やして大量の二酸化炭素を排出し続ければ、地球温暖化に伴う気候変動など取り返しのつかない環境危機が訪れることになるわけです。

そうした事態を回避するためにも、個々人が人と自然との関係をいま一度見なおすべき。『資本論』は、そのための道標にもなるのだといいます。(11ページより)

平易な解説とイラストによって、予備知識ゼロの人でも無理なく『資本論』を理解できる内容。資本主義に組み込まれてブラックな労働環境のなか、主体的かつ戦略的に生きていくために、本書を活用したいところです。

Source: Gakken

メディアジーン lifehacker
2023年8月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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