『西洋の護符と呪い:プリニウスからポップカルチャーまで』
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『西洋の護符と呪(まじな)い プリニウスからポップカルチャーまで』尾形希和子著
[レビュアー] 小池寿子(美術史家・国学院大教授)
「パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム」。1960年代のフォーク・デュオ、サイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェア」では、ハーブ名が呪文のようにリフレインし、記憶に刻まれる。これらは恋を成就させ、あるいは邪気を払う効能がある薬草だという。ベトナム戦争へと突入するアメリカの青春を謳(うた)う名曲だ。
本書は、護符や呪いの機能をもつ「角(コルナ)」「赤」「石」「薬草」「目」「結び目」「生殖」「聖人」を取り上げ、その摩訶(まか)不思議な力について、古代から現代まで命脈を辿(たど)る。たとえば、角では古代の豊穣(ほうじょう)の角や一角獣、魔除(よ)け厄除けとして古今東西尊ばれる赤では、ミミズク、神秘の珊瑚(さんご)から唐辛子まで、石では鉱物や貴石、目の力ではメドゥーサをはじめ目力の不思議を、さらに生殖では神話宗教にみるエロティシズムの聖性と護符機能など、豊かな知識にもとづきながら文化の基層を紐(ひも)解く小気味よい知恵の書だ。
古代文明が色濃く残るナポリに留学、そして沖縄に長く滞在した著者の慧眼(けいがん)は、多くのカラー図版によって輝きを増している。(八坂書房、2420円)