『日本のコミュニケーションを診る』
- 著者
- パントー・フランチェスコ [著]
- 出版社
- 光文社
- ジャンル
- 哲学・宗教・心理学/心理(学)
- ISBN
- 9784334100667
- 発売日
- 2023/09/13
- 価格
- 946円(税込)
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『日本のコミュニケーションを診る 遠慮・建前・気疲れ社会』パントー・フランチェスコ著
[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)
歪さ 外国人医師が分析
日本に住むイタリア人精神科医が見た日本人のコミュニケーションは、どれも歪(いびつ)だ。自身の痛みを表明するのが苦手な日本人につきまとう「遠慮」「我慢」「めんどくさい」、感情労働がもたらす精神的ダメージ、集団内における人間の「キャラ化」。それらを通して、日本社会を覆うおかしなものを炙(あぶ)り出す。ところどころ行き過ぎた点はあれど、読み進めるうち、そのどこかひんやりしたアンドロイド感が癖になってくる。カタコトの外国人に親近感が湧くように、そこに書かれている角度のついた意見を程よく疑いながら、肩の力を抜いて考えられるのが良い。そうかと思えば、いきなり核心をついてきたりもする。たとえば自らの人格特性を標準的に述べるのが西洋社会で、状況特性的に述べるのが東洋社会だという記述は、なるほど自分が自分をどう思っているかではなく、つい他者が自分をどう認識しているかを語ってしまいがちだよなと納得させられた。
とにかく信頼されたそうな語り手が溢(あふ)れる今、こうした語り手こそが大切なのではないか。読者は、何よりまず読者としての自分に疑いを向けるべきだからだ。そして、コミュニケーションに必要なのは「会話」より「対話」だ、と著者は言う。言葉を発しさえすれば成立する会話と違い、気持ちの共有が求められる対話に必要なのは、こうした適度な疑いなのかもしれない。
「日本社会では会話を盛り上げることが、会話に参加する人の使命だと思われている。その手段として、いわゆる『ボケ』『ツッコミ』などの技術が用いられる」
この箇所を読んで、もうずいぶん前に流行(はや)った「欧米か」というツッコミを思い出した。今欧米で「日本か」というツッコミが流行っていたら、そう思うとゾッとする。
どの指摘も余計なお世話と言えばそれまでだが、余計なお世話ほど面白いものはない。(光文社新書、946円)