『太郎の嫁の物語』三浦暁子著

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太郎の嫁の物語

『太郎の嫁の物語』

著者
三浦, 暁子, 1956-
出版社
ビジネス社
ISBN
9784828425207
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

『太郎の嫁の物語』三浦暁子著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

自分の弱さ さらす強さ

 拝啓 三浦暁子様

 ご著書、興味津々で読みました。三浦朱門と曽野綾子という高名な作家夫婦の嫁になるとはどういうことか。多分にのぞき見趣味でめくりましたが、こんなにシリアスでおもしろい「嫁物語」はありませんでした。ユーモアあふれる筆致に見惚(ほ)れました。それにしても夫太郎さんや祖父母も含め三浦家は個性的ですね。

 物事を深く考え家庭内で侃々諤々(かんかんがくがく)論じ合う。一分一秒を大切にする「時短の人」たちでもある。「何も考えず、起きたまま寝ているような」自分とは対極にある世界でどう生きたらいいのか。暁子さん、あなたは戦略家です。「よくわからない」と観察の日々を送り、補欠に徹します。三浦家の人たちが知らないサラリーマン家庭とはこんなものだと断言してみせます。

 苦しみをエネルギーに変え、作家として大成した義母は火宅の中で育ったから自分が鍛えられたと言います。のほほんと生きたいあなたは「ワタクシはそんなの、ごめん被りたいわ。つまらないでしょう? そんな人生」とばっさり切られます。でも、あなたは思います。「私はそんなことは避けて通りたい。どんなにつまらない人生でもいいから、夫と息子の家族がぬくぬくと生きている方がいい」

 私はそこにあなたの強さをみます。三浦家の人々といたずらに対立的にとらえようとしているのではありません。虚飾なく自分の弱さをさらけ出し、ありのままの自分を大切にしようとしているあなたが貴いと思うのです。

 それにしても義父三浦朱門への思いは胸に迫ります。「自分でもどうかしていると思うほど、私は義父を慕っていた」「義父は私に何も望まなかった。(中略)ただ、いつまでも綺麗(きれい)でいるように努力して欲しいとは、頻繁に言った」。二人で撮った写真、とてもいいですね。暁子さん、隠し球が多く気の休まらない太郎さんとの日常も含めてあなたは幸せだとつくづく思いました。(ビジネス社、1760円)

読売新聞
2023年11月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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