失敗しない「戦略」の立て方は?難しい経営学をわかりやすくタイパよく学ぶヒント

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1フレーズ経営学

『1フレーズ経営学』

著者
三谷 宏治 [著]
出版社
SBクリエイティブ
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784815621643
発売日
2023/11/01
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

失敗しない「戦略」の立て方は?難しい経営学をわかりやすくタイパよく学ぶヒント

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

著者によれば『1フレーズ経営学』(三谷宏治 著、SBクリエイティブ)は、ビジネス初心者や経営学の初学者を対象とした経営学の入門書。したがって提供すべきバリュー(価値)は、「有用な知識をタイパよく届けること」なのだそうです。

とはいえ、それはなかなか難しいことでもあるようです。なぜなら、そもそも経営学自体が「経営者が学ぶべきことの集合体」だから。そのため学ぶべき範囲は広く、多くの人には実体験のないものでもあるのです。

そこで本書では下記のような戦略を立て、経営学の基礎をわかりやすく伝えようとしているわけです。

・インプット(投入時間)の最小化:本書でカバーする領域は事業レベルの基礎系中心。事業部長以下には求められない全社レベル、応用系の項目は捨てる。「読んでも頭に残らない」説明的な文章は極力減らす

・アウトプット(知識定着)の最大化:複雑な概念は図にして一目でわかるようにし、各項目の本質や洞察は印象的な「1フレーズ」でしっかり頭に残す。楽しみながら読めるような歴史的背景や面白い事例を豊富に取り入れる(「はじめに 『タイパ』もいいが、頭に残らなきゃ意味がない。」より)

つまりはこのように、「コスパ」よりも「タイパ」が重視されているということ。とはいえタイパの分子はパフォーマンス(成果)なので、単に時間を短縮できるというだけでは意味がありません。そこで本書には、読んだものが少しでも頭に残るような工夫が施されているわけです。

きょうは1章「経営戦略 事業の方針を示す」のなかから、基本的な考え方である「戦略とは」内の「目的と資源集中」に焦点を当ててみたいと思います。

戦争にも目的がある?

戦略とは捨てることなり(18ページより)

もとは軍事用語である「戦略(ストラテジー)」が企業経営の世界で用いられるようになったのは、1950〜60年代のこと。戦争になぞらえることの是非はともかくとしても、戦争からの学びは経営者たちを惹きつけ続けることになったのでした。

国家間の軍事力を伴う戦いには「戦争」「戦略」「作戦」「戦術」「実行」などのレベルがありますが、各々に「目的」が存在します。ナポレオン戦争からカール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』(1932)が生まれ、そこで「戦争目的」が議論されました。

彼は「戦争とは政治における国家間紛争の一解決手段である」とした上で、「戦争は相手の殲滅(筆者注:すべて滅ぼすこと)だけが目的ではない」と論じました。(19ページより)

そして一般的に、戦いの行き着くところを決めるのは「その目的がどれくらい絞り込まれているか」という点。多少の戦力差があったとしても、「目的が曖昧なら負け、明確なら勝つ」ということ。いいかえれば戦争レベルでの目的が曖昧だと、どうしようもないことになってしまうのです。

そのいい例が、ロシアのプーチン大統領の「妄想」から始まったウクライナ戦争。この戦争がロシア軍を圧倒的に疲弊させることになったという事実は、まさに目的の曖昧さによるものだったと解釈できるわけです。(19ページより)

日本軍の敗北からの教訓:戦略とは捨てること

次は戦略レベル。ここで著者が注目しているのは、『失敗の本質』(1984)で経営学者の野中郁次郎らの研究です。そこで諸氏は第二次世界大戦における日本軍の軍略上の失敗を詳細に見極め、そこから近代組織への示唆が導き出したのです。

太平洋戦争においてそれまで連戦連勝だった日本海軍は、ミッドウェー作戦において大敗し、「太平洋の戦局はこの一戦に決した」といわれました。しかし、戦略的に優位にあったはずの日本海軍は、なぜ米海軍に敗れたのでしょうか?

大戦中、日本軍において致命的だったのは、常に「戦略・作戦・目的」が曖昧だったことでした。

連合艦隊司令長官の山本五十六は部下たちに「①米(空母)艦隊を撃滅せよ、かつ、②ミッドウェー島を攻略せよ」という二重目的を与えました。

空母から飛び立つ飛行機にとって、陸(島)を攻撃する装備と、艦隊を攻撃する設備はまったく異なるのに。(20ページより)

その結果、日本海軍は状況対応に遅れ、目的を「日本の空母艦隊を撃滅する」ことに絞った米軍に敗れたのです。(20ページより)

戦略レベルの失敗は、作戦レベルでは挽回できない

ミッドウェー作戦においては、「島の攻防」と「艦隊同士の勝敗」というダイジな2つの目的のうち、二兎を追った日本軍が負け、後者に絞って前者を捨てた米軍が勝ちました。

米司令長官のニミッツは「島は一時占拠されても後で取り返せばよい」「敵空母以外には攻撃するな」と部下に繰り返し伝え徹底しました。「島の防衛」を捨てること、「空母以外」を捨てることを明確にしたのです。

しかし山本長官はそういった優先順位を明らかにせず、部下とのコミュニケーションも取りませんでした。(20〜21ページより)

ここからは、戦略とは集中すべきことを明確にするということであり、同時に「なにかを捨てる」ことでもあるということがわかります。

また、戦略レベルでの失敗は、その下のレベルで挽回できるものではないとも著者は述べています。

1960〜70年代、日本企業はようやく育ってきた主力事業に経営資源を集中させ、欧米の大企業に苦杯をなめさせました。

しかし1990年代以降、日本の総合電機メーカー(NECや東芝)による半導体事業は、企業の存続を半導体に賭けた韓国サムスンに敗れました。今やトヨタ自動車ですら、EV(電気自動車)に未来を賭けたイーロン・マスク率いるテスラの後塵を排しようとしています。(21ページより)

このことに関連して引き合いに出されているのは、「二兎追うものは一兎をも得ず」という古代ギリシャ起源のことわざ。私たちはとかく、捨てるのは嫌だからと二兎も三兎も追いかけてしまいがち。

しかし、もはや「捨てるのが苦手だ」などと口にする暇はないというのです。すなわちそれが、「目的と資源集中」の重要性につながっていくわけです。(20ページより)

一節は大半が4ページ構成でまとめられているため、必要なことを効率的に学ぶことができるはず。経営学の基礎を身につけたい方は、手に取ってみてはいかがでしょうか?

Source: SBクリエイティブ

メディアジーン lifehacker
2023年12月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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