『竹内芳郎 その思想と時代』
- 著者
- 鈴木 道彦 [監修]/海老坂 武 [監修]/池上 聡一 [編集]
- 出版社
- 閏月社
- ジャンル
- 哲学・宗教・心理学/哲学
- ISBN
- 9784904194508
- 発売日
- 2023/10/27
- 価格
- 3,960円(税込)
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『竹内芳郎 その思想と時代』鈴木道彦/海老坂武監修/池上聡一編
[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)
戦争を否定 哲学の闘い
誰某(だれそれ)の哲学に取り組むとはいったいどういうことなのだろう。著作を精緻(せいち)に読み込み、哲学者が言いたかったことを過不足なく取り出す解釈作業なのか。だとすれば、思想を「正しく」解釈することにはいったい何の意味があるのか。
日本のサルトル受容に多大な貢献を果たしながら「哲学研究者」の枠に収まらない竹内芳郎(1924~2016年)をめぐる本論集を読むと、そのように自問せずにはいられない。解釈にかかずらうことの多い自分など、「その先に何があるのか」と問いかけられているように感じる。本書の十二論文のうち、主に永野潤と小林成彬の論文を参考に、その故を記しておく。
竹内は、流行としての実存主義とは別の文脈で、また、ポストモダンによって実存主義が死んだとみなされた後もサルトルの可能性に拘(こだわ)った。それはあくまで、サルトル思想が、「この日本的現実のなかにあってその愚劣さと闘うための武器としてそれを生きる以外にはない」存在だったからである。「日本的現実」とは、戦争体験を思想形成の原点とした竹内にとって、集団同調主義のことであり、それを竹内は「天皇教」、「神道的精神風土」と呼んだ。ここには、京都学派の哲学者が自ら戦争を肯定したように、哲学が戦争を明確に否定することができなかったという現実に対する哲学としての闘いがある。その意味において竹内は、自分は「いちども実存主義者たることをやめたことはない」と言う。
竹内の「実存主義」とは、「生活と思索の結合」である。しかしそれは、思索が生活に役立つ便利な道具だなどということでは断じてない。「生活を単に追認するだけの思想なぞ、思想の名に価しない」という竹内の警句は耳に痛い。
私たちはこのように思想を自らの問題として生きるということができているだろうか。途方もなく難しいことだ。このたび刊行が始まった『竹内芳郎著作集』を繙(ひもと)いて、「思想態度」としての古びない「実存主義」を学びたい。(閏月社、3960円)