台湾の複雑なアイデンティティ「国」なのか、それとも…?いま知っておきたい台湾の基本

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台湾の本音

『台湾の本音』

著者
野嶋剛 [著]
出版社
光文社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784334101701
発売日
2023/12/13
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

台湾の複雑なアイデンティティ「国」なのか、それとも…?いま知っておきたい台湾の基本

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

台湾問題が国際的な関心事となり、日本においても大きな注目を集めています。とはいえ、台湾に関してはなにかと「難しいこと」「わかりにくいこと」が多いのも事実ではないでしょうか?

しかしそれでも、難しいことがたまらなくおもしろいといい切るのは、『台湾の本音』(野嶋 剛 著、光文社新書)の著者。台湾に関わり始めてから20年になるというジャーナリストですが、10冊以上の関連書籍を書いてもなお、台湾にはわからないことが多いというのです。

台湾については、既説書で『台湾とは何か』(ちくま新書)という本を書いたことがあります。2016年に出版され、いまも版を重ねています。

しかし、それから7年が経ち、台湾にもいろいろな変化が起きました。そして、それよりも大きかったのは中国が変わったことです。

習近平国家主席の絶対権力化が進み、中国がかつて期待されたような「開かれて、自由で、民主的な国」へ変わっていくことはほぼ絶望的になりました。

豊かにはなったものの、隣国として安心して付き合える国ではなくなってしまった。アメリカは、中国への「コミットメント(関与)」を掲げ、ある意味では日本以上に中国との付き合いに前のめりでしたが、今や中国を戦略的競争相手とみなし、経済デカップリングを仕掛けています。そんな新冷戦とも呼ばれる米中の対立関係が鮮明になりました。(「まえがき」より)

その結果として台湾に、中国からの政治的・軍事的圧力と、アメリカからの政治的・軍事的関与が同時に注がれることになったのはご存知のとおり。いい例が2022年8月のナンシー・ペロシ下院議長(当時)の訪台と、それに対する中国の軍事演習です。

その際には中国のミサイルが日本の排他的経済水域に撃ち込まれたため、「台湾有事は日本有事」というキーワードとともに、日本が台湾と中国との戦争に巻き込まれるリスク認識が多くの人に広まることになりました。

そこからもわかるとおり、この7年を振り返ってみても、台湾については新たな情報をたくさんインプットする必要が生じたわけです。そこで本書では、変わり続ける台湾についての課題に対する「解」をわかりやすく示しているのです。

しかし、そもそも台湾は「国」なのでしょうか? ここでは多くの人が疑問に関しているであろう(けれど人には聞きにくくもある)、この基本的な疑問を解消すべく、ずばり「台湾は『国』なのか」というタイトルがつけられた第1章に焦点を当ててみましょう。

日本人の大きな誤解

長らく朝日新聞社に勤務し、台北支局長などを務めてきた著者は近年、日本における台湾への関心の高まりを感じ取っているそうです。たしかに旅行者や留学生も増えましたし、多くの方にとって台湾はなにかと気になる国になっていることでしょう。

しかし、まず最初に解消しておくべきは、台湾が「国」なのかどうかという疑問。事実、著者が講演会やテレビなどで「台湾は『国』だと思いますか?」と問いかけてみても、かなりの方から「国ではないと思う」という答えが返ってくるのだといいます。

では、なぜ台湾を「国ではない」と感じるのか? ここに日本が持つ、台湾への大きな誤解があるようです。

まず確認したいのは、「国であるための条件」とはなにかということ。国家の要件を明文化したものとして挙げられるのは、1993年に締結された「国家の権利及び義務に関する条約(モンテビデオ議定書)」。ここには、国家の資格として大きく4つの点が挙げられています。

① 領土

② 国民

③ 政府

④ 国際承認

(18ページより)

そして、この定義を台湾に照らし合わせてみると……

① 台湾島を中心とした領土を持つ

② 約2360万人の国民を有する

③ 中華民国政府という体制がある

(18ページより)

このようになります。しかも台湾には自国通貨もあり、軍隊も持っていて、国境管理も行われているため、外側から見れば国家以外のなにものでもないでしょう。ただし問題は、最後の要件である④の「国家承認」。

台湾は国際連合に加盟しておらず、国交を結んでいるのは13カ国(2023年11月時点)であり、日本も正式な国交は結んでいません(非公式な交流窓口は存在します)

以前は、台湾は日本とも国交を結んでいましたし、国際承認も受けていました。しかし、この事実はほとんど忘れられています。

1971年に中華人民共和国(中国)が国連へ加盟するのと同時に、台湾は常任理事国だった国連を脱退しています。

さらに翌1972年には、日本の田中角栄首相(当時)が中国を訪問し、日中共同声明を発表して国交正常化を果たしますが、同時にそれまで国交を結んでいた台湾と断交することになりました。(19ページより)

中華民国には、蒋介石率いる国民党が国共内戦に敗れ、台北に逃れた歴史があるので、台湾は中国を自分たちの領土だと考えていたのだそうです。ところが逆に中国は、台湾は中国の一部であると公言しています。日本を含む国際社会に対しても、そう強く主張しています。

そのため日本では、中国との国交正常化および台湾との断行以降、政府やメディアは50年にわたって「台湾政府」「台湾という国家」などの表現を回避する措置を続けてきたということ。それが、「台湾は国ではない」という認識につながっていったのではないかと著者は分析しています。(16ページより)

台湾なのか、中華民国なのか

ところで台湾を語る際には、「台湾なのか、中華民国なのか、いったいどっちなの?」という疑問が生じることになるかもしれません。したがって著者は、この点についても言及しています。少し長くなりますが引用しておきましょう。

中華民国は民族主義(民族独立)、民権主義、民生主義という三民主義を唱えた反清朝勢力が辛亥革命を起こし、翌年の1月1日に孫文を臨時大統領にした臨時政府から始まりました。孫文は1919年に中国国民党を設立します。

清朝に続く正統政権として、その後は蒋介石がリーダーとなって中華民国を統治していきました。1945年に第二次世界大戦が終結すると、日本がそれまで統治していた台湾は連合軍の一員として中華民国が「接収」します。

しかし、その後に起こった中国共産党との国共内戦で、蒋介石を中心とした中華民国の国民政府――中国国民党は、1949年に台湾へ逃れました。一方、大陸に残った中国共産党は、中華人民共和国を設立します。この国共内戦は、まだ終結したわけではありません。

中国は台湾も自分たちの国の一部であると主張していますし、逆に中華民国も、自分たちが中国大陸も支配することができる政権であると憲法で位置づけています。(22〜23ページより)

つまり台湾海峡を挟んで、中華人民共和国という政治実体と、中華民国という政治実体がいまなお戦っている構図が残っているということ。台湾問題を中国や台湾が「両岸問題」と呼ぶのはこのためです。いわば「未完の内戦」であり、その構図をまず知っておかないと、台湾問題はなかなか理解できないわけです。(22ページより)

台湾の歴史から中国との関係性、「親日」といわれる根拠、そして「台湾有事」に関する問題など、変わり続ける台湾について知っておきたいことが網羅された一冊。未来にあるべき日本との関係性を見据えるためにも、ぜひ読んでおきたいところです。

Source: 光文社新書

メディアジーン lifehacker
2024年1月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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