ジョブ型雇用・年俸制…企業人事が陥りがちな失敗とうまくいかないとき見直すべきこと

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人事で一番大切なこと

『人事で一番大切なこと』

著者
西尾 太 [著]
出版社
日本実業出版社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784534060624
発売日
2023/11/25
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】ジョブ型雇用・年俸制…企業人事が陥りがちな失敗とうまくいかないとき見直すべきこと

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

成果主義の失敗、職務主義(いわゆる「ジョブ型」)の失敗、年俸制の失敗、人事部廃止の失敗など、1990年以降、企業は「人事の失敗」を繰り返してきた。そしていまなお、90年代とさして変わらない「人事」が多くの企業で行われてもいるーー。

人事で一番大切なこと 採用・育成・評価の軸となる「人事ポリシー」の決め方・使い方』(西尾 太 著、日本実業出版社)の著者は、そう指摘しています。大学を卒業してから30年以上、「企業人事」の領域で仕事をしているという人物。人事コンサルタントとしても、500社以上の企業人事を見てきたのだといいます。つまり、多くの失敗を見てきたわけです。

しかし、そもそもなぜ「企業人事」は失敗するのでしょうか? この問いに関連して著者は、「考え方」のあり方を指摘しています。人事制度、採用方法、研修などをどのような「考え方」のもとで行っているのか? その「考え方」の突き詰め方が足りないからこそ、失敗につながってしまうということです。

基本給を下げることを是とするのか。なぜ下げるのか。給与はなぜ上がるのか。賞与は何に対して払うのか。社員のキャリア形成をどのように考えるのか……。

これらは企業ごとに違う「企業の、働く人に対する考え方」によります。

「長く働いてほしい」という企業もあれば、「人が新陳代謝をしていくほうがいい」という企業もあります。それぞれの企業の個性ともいえます。

私たちはその企業の個性ともいえる「軸」となる考え方を「人事ポリシー」と呼んでいます。

この軸となる「考え方」=「人事ポリシー」をしっかりしないまま、人事施策に取り組んでしまうから「失敗」してしまうのです。(「はじめに」より)

もちろん人事に正解はありません。しかし、そうであっても、失敗は極力減らす必要があります。そこで本書において著者は、いい人材を採用でき、人が育ち、自分で考えて結果を出し、チームワークに優れ、好業績が安定的に発揮できる人事のあり方を伝えようとしているのです。

きょうはそのなかから、Chapter2「人事は『やり方』の前に『考え方』に焦点を当ててみたいと思います。

人事は「やり方」だけではうまくいかない

採用な各種人事施策の多くで重要なのは、人事の「やり方」。したがって、この「やり方」をどんな「考え方」で実施するのか。そこが重要だと著者は述べています。

「どのような人を採用するのか」という「考え方」をしっかりした上で、「どのように採用するか」という「やり方」を考えなければならないのです。「あの採用方法がよさそうだ」と飛びつくのではなく、「そもそもどんな人を採用するのか」から始めないと失敗するのです。(52ページより)

「社員にどう成長して欲しいのか」という「考え方」を明確にし、「どんな教育施策や研修が必要なのか」という「やり方」も考えなければならないということです。

そこで大切なのは、「そもそもどんな人材を育てていくのか」から始めること。社員のキャリアアップ、社員に対する評価軸、給与のあり方などを考えたうえで、「どのような制度が自社にフィットするのか」という「やり方」を検討しなければならないのです。(52ページより)

基礎からデザインまで建物に通ずる3つの「人事構造」

長らく人事に関わってきた著者は、「人事」には大きく分けて「ベタベタな人事」「ベタな人事」「おもしろ人事」という3つの構造があると感じているのだそうです。

ベースにある「ベタベタな人事」は、給与計算・支給、労働時間管理、労働法規対応と就業規則の整備など、企業人事を行ううえで最低限必要となるもの。

この基本構造の上に「ベタな人事」があり、ここには人員計画、採用代謝、任免、配置、等級制度・評価制度・給与制度といった「人事制度」などが含まれるということ。

建物でいえば「ベタベタ」は土台となる基礎工事で、「ベタ」が柱や梁といった躯体。この部分を著者は「基幹的人事機能」と呼んでいるそうです。

その上にあるのが、建物の外観や内装にあたる「おもしろ人事」。これは、「抜擢」「主要人材評価」「幹部年収」「採用イベント」「表彰制度」「各種研修」「自己申告制度」「インセンティブ」「法定外複利」「FA制度」「社内イベント」「社内サークル」などの、さまざまな人事的施策。

家づくりにおいては外観や間取り、デザインなどが重視されがちですが、とはいえ耐震性・耐久性があってこそ。ところがそれらはあまり「目に見えない」ものでもあるでしょう。人事についてもまた、同じことがあてはまるようです。

「ベタベタな人事」は、あまりおもしろくないかもしれません。一方、「ベタな人事」は難しそうに見えます。でも、ちょっと違うのが「おもしろ人事」。その施策がおもしろければ、マスコミが取材に訪れる可能性も否定できないからです。そのため、どうしてもそちらに目が向けられることになってしまうというのです。

あるIT系大手企業が導入する「新しい人事の取り組み」は、とても注目されます。ニュースにもなりますし、セミナーなどで紹介されたりします。「おもしろ人事」です。

しかし、あまり言ってくれないのですが、その会社にはしっかりした「ベタベタ」と「ベタ」な人事があります。おもしろくないので記事にはならないのかもしれません。でも土台はしっかりしているわけです。

そこを見ずして「おもしろ」だけを見て、「うちにも導入してみよう」は危険です。土台がないのですから、建物は崩れます。(57〜58ページより)

つまり人事担当者には、「ベタベタな人事」や「ベタな人事」に関する一定の知見や知識、経験が求められるのです。それがなければ楽しいはずの施策も逆効果になり、多くの弊害を生んでしまうことになるからです。

そして、もうひとつ見逃すべきではないことがあるそうです。こうした人事制度の形は、大企業でも中小企業でもほぼ同じだということ。それは、人事制度には「おさえておかなければならない型」があるということです。

「型」から大きく外れるとだいたいは失敗します。

楽器の習得でもゴルフでも、茶道や華道でも、一定の型がありますよね。ルールもあります。将棋も囲碁も盤と駒は共通ですね。それと同じことが言えます。

まずは型を学び、その上で実力をつけて、「自分なりの手法」を編み出していくものです。「守破離」ともいいますね。

人事も同様で「守」をしっかりとしておかないと、その後の成長は限られます。(59〜60ページより)

したがって、企業人事を実践していくためには、まず基礎構造を理解し、一定の型があることを認識しなければならないわけです。(55ページより)

「働く人への考え方」次第で、会社の未来、そして働く個々人の在り方は大きくかわるものだと著者。たしかに、そのとおりではないでしょうか?だからこそ本書を参考にしながら、よりよい人事のあり方を模索してみるべきかもしれません。

Source: 日本実業出版社

メディアジーン lifehacker
2024年1月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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