『ビル・エヴァンス・トリオ 最後の二年間』ジョー・ラ・バーベラ/チャールズ・レヴィン著

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ビル・エヴァンス・トリオ 最後の二年間

『ビル・エヴァンス・トリオ 最後の二年間』

著者
ジョー・ラ・バーベラ [著]/チャールズ・レヴィン [著]/荒井 理子 [訳]
出版社
草思社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784794226877
発売日
2023/12/04
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ビル・エヴァンス・トリオ 最後の二年間』ジョー・ラ・バーベラ/チャールズ・レヴィン著

[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)

 きっちり撫(な)でつけた髪に、黒縁メガネと細身のスーツ。ビル・エヴァンスと聞いて思い浮かぶのはこんなイメージだ。ところが、晩年に活動を共にしたドラマーが最後の2年間を綴(つづ)った本作に登場する彼は、髪を伸ばし、ワイルドな髭(ひげ)まで生やしている。

 作品自体がまるで1曲を奏でるかのような構成になっていて、ドラマーならではの、決して踏み込み過ぎず、全体を俯瞰(ふかん)で見渡す語り口も心地良い。冒頭でメンバーがステージに登場する。前半はゆったり、徐々に各楽器が絡み始め、中盤以降どんどん激しさを増す。深刻な薬物依存で蝕(むしば)まれていく体を引きずるようにしてステージに立ち、演奏に没頭するその姿は、音楽を奏でる一人の人間としてのビル・エヴァンスを浮き彫りにする。罪を犯したなら、罰を受け、しっかり償わなければならない。だとしても、それでその人の作品までが嘘(うそ)になるのか。次々と誰かに何かが暴かれ続けるこんな世の中だからこそ、彼の生き方は、読後に深い余韻を残す。そしてまた、寂しげで美しいあのピアノの旋律が聴こえてくる。荒井理子訳。(草思社、2640円)

読売新聞
2024年2月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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