『天狗説話考』
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<書評>『天狗(てんぐ)説話考』久留島元(くるしま・はじめ) 著
◆言葉が偶像を生むプロセス
人は見ようとする世界を見ているのであって、見ようとしていない世界はたとえ目の前にあったとしても見えてはいないし記憶に残らない。そのような意識の外にある異界の「天狗」をめぐる説話の旅に出てみないか。本書は誘い水のようにささやきかける。これまでの「天狗」のお話を見事に裏切ってくれるに違いない。
本書は「天狗研究」ではない。4章仕立ての「天狗説話研究」であり、説話が形成され、その具体像が提示されていくプロセスに注意を注いでいる。そして説話研究の醍醐味(だいごみ)をコンパクトにまとめ、学術的なエビデンスも網羅。説話と偶像の境界に広がる思考の移ろいと歴史的変移を、信仰や芸能、文芸など多角的な視点から捉え直し、時代社会の世相を交えて説話の全貌を見事にまとめている。
この世には存在しない摩訶(まか)不思議な魑魅魍魎(ちみもうりょう)がまことしやかに踊り出す。日常からズレた超越世界を、言葉(思考)によって生み出す人間。そのけったいな動物の思考の運動そのものが本書の面白みをそそる隠し味となっている。
(白澤社発行 現代書館発売 2860円)
1985年生まれ。京都精華大特任講師ほか。
◆もう一冊
『天狗と修験者 山岳信仰とその周辺』宮本袈裟雄著(法蔵館文庫)