とんねるず「木梨憲武」が芸能界の“タブー”を犯しても許された理由とは 自伝で語った“小3メンタル”が鍵

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みなさんのおかげです 木梨憲武自伝

『みなさんのおかげです 木梨憲武自伝』

著者
木梨 憲武 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093891110
発売日
2024/01/26
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

計算も邪気もなく、芸能界を自在に泳ぐ「永遠の小3」!

[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)

 時代の寵児として、テレビ繚乱期を駆け抜けたとんねるず。リーダー石橋貴明とは違い、いつも何を考えているのかわからない佇まいの木梨憲武。そんな彼の初めての自伝が本書である。

 おなじみ「木梨サイクル」で育ち、テレビっ子だった幼少期。ドリフやコント55号を見て「いつかあっち側の人間になる」と根拠なく信じていた。その頃と本質的に変わっていないと、自らを「永遠の小3」と称する。

『TVジョッキー』などの素人出演番組百花繚乱の時代、帝京高校で同級生だった石橋とコンビを組み出演、即人気者に。芸能事務所に入ってない、師匠もいない、下積みもない、高校出たての素人である二人は、異色の存在。作りこんだ漫才やコントではなく、モノマネなどの瞬発力頼りの笑いは「部室芸」と揶揄されたが、これがとにかく同世代の若者にウケた。本人も引くほどの、その後の怒涛の快進撃は、ここに記すまでもない。

 テレビが最も勢いがあった時期と、自らの全盛期が重なった事を、幸せだったと振り返る著者。売れる前も売れた後も、心がけていたのは一点、「きちんとあいさつをしなさい」という祖母の教えの履行であった。誰に対してもこれを行い、自分の事を覚えてもらい、信用してもらう。これを繰り返すと、仕事の姿勢やスピード、行動力、面白いと思う部分が同じで、根本的に繋がれる「俺気味」な人たちが増えていった。年齢やクラスが上の相手にも変わらず「お邪魔します!」とあいさつし、仲間に加えてもらう。人の胸襟を開かせる才に長けた人間は多いが、著者の場合、計算も邪気もなく、ただ「わあ面白そー、こんにちわー」という小3メンタルのまま、相手の懐に飛び込んでいく。結果、気鋭の業界人のみならず、西城秀樹や美空ひばりなど、多くの大物芸能人たちからも目をかけられた。「一緒に仕事をしたいと思ったら、直接本人に頼む」という、芸能界でのタブー行為が許されるのも、一度も大手事務所に所属したことがない強みだという。

 時代の変化に抗うこともなく。レギュラー番組終了の報にも、忸怩たる思いを抱く相方に対し「そっか。次は何しよ」とすぐ気移りしていたそうで。妻・安田成美とのなれそめや結婚生活などにも触れてはいるが、あくまで小3目線。「こういう人と一緒なら、何が起きても、最終的には問題なくなるだろう」という、結婚を決めた時の安田の諦観にも似た心境が、彼という人物を如実に物語っている。とにかく不世出なプロ天衣無縫。

新潮社 週刊新潮
2024年2月29日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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