なぜ私たちは「モフモフしたもの」をかわいく感じてしまうのか?の考察

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モフモフはなぜ可愛いのか

『モフモフはなぜ可愛いのか』

著者
小林 朋道 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784106110320
発売日
2024/02/17
価格
880円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】なぜ私たちは「モフモフしたもの」をかわいく感じてしまうのか?の考察

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

『モフモフはなぜ可愛いのか』(小林朋道 著、新潮新書)の著者は、ヒトを含むさまざまな動物について、動物行動学の観点で研究を続けてきた理学博士。

「興味深く、かわいく感じる」という動物が大好きで、その一方、“ヒトという動物”も研究対象として見逃せないのだとか。ヒトがたくさんいる街中をはじめ、駅や電車のなかなどでは、ヒトを“とても変わった魅力に満ちた野生動物”として観察しているのだというのです。

また、ヒトも含めた野生動物について、その習性はもちろんのこと、「なぜ彼らは、そのように行動するのか、なぜそんな習性を持っているのか」について研究し、その結果としてわかったことや、推察したことを書くのもお好きなようです。

そこで、ヒトについて新しい本を書こうと思い立ち(しかし意外にもネタが思い浮かばなかったため)、趣旨を説明したうえでSNSを通じて「ヒトについて日ごろから疑問に感じていることを教えてください」とお願いしたそう。

そうして集められた質問のなかから13種を厳選し、動物行動学に立脚して書いたのが本書なのです。

私は動物が大好きで、特に野生動物を中心に、彼らの息遣いが感じられるような観察や実験を通して、行動を中心にした習性を研究してきた。

まー、動物たちを、とても興味深く、可愛く感じるのだ。……と冒頭に書いた。そしてヒトという動物も好きだと書いた。

ヒトという動物の特性を考えると、温暖化防止が、自分(また遺伝子を受け継いでいる自分の子ども)にとってどれほどの利益になるのか(大きなダメージから逃れられるのか)を認識できるかどうかが、一つの重要な鍵になると思われる(「はじめに」より)

そんな本書において著者は、SNSを通じて集められたさまざまな質問に答えており、そのどれもが(質問も回答も)ユニーク。しかし、どうしてもタイトルが気になってしまいます。そこで今回は、12「モフモフはなぜ可愛いのか?」に焦点を当ててみたいと思います。

なぜ、モフモフはかわいいの?

Q なぜ、人がかわいがってみたくなるものは、モフモフしているものが多いのでしょうか?(198ページより)

この質問に答えるためには、まず「モフモフ」が持つ2つの要素を分けて考える必要があると著者はいいます。まずひとつは、「比較的、短めの毛がびっしり被っている状態であること」、もうひとつが「比較的、丸っこくて、小さめであること」

そこで、まず「丸っこくて比較的小さいことが、なぜ“かわいい”につながるのか?」を、以下の動物行動学の基本認識をもとに考えようとしているのです。

「ヒトの、カワイイという感情も含め、様々な心理、そして行動、体の構造などの特性は、自分(正確に言えば、遺伝子)の生存・繁殖にとって有利になるようにプログラムされている」(199ページより)

では、「丸っこくて比較的小さいものをかわいいと感じる」ことがなぜ、自分の生存・繁殖にとって有利になるのでしょうか?(198ページより)

「保護してあげたい」という感情

この問いに対する著者の仮説的な答えは次のようになるそうです。

子どもは、保護者の助けを借りないと生きられないくらい、幼ければ幼いほど、頭部を中心に、体が丸っこいのである。「〇頭身」(全身と頭部の長さの比率)という言葉があるが、幼いときは、全身の長さに対する頭部の長さの比率が大きく、成長するにつれて、比率の値は小さくなる。つまり、頭部の大きさが相対的に小さくなるのだ。

また頭部の形自体も幼い頃はほぼ球形に近く、それから、少しずつ縦長になっていく。さらに、手足、胴体などの形状も幼いほどふくよかで丸っぽい。(199〜200ページより)

「物理的に、首から下の身体がまだ小さい状態で誕生するしかない」ということをはじめとする諸々の事情から、「相対的に大きな頭部の状態での誕生」はやむを得ないわけです。

一方、親に求められているのは、自分の遺伝子があとの世代まで生き残って増えていくこと。そのためには、幼い子どもに対して「保護してあげたい」と強く感じ、その思いに動かされて行動するように、その脳や他の器官、身体がつくられていかなければなりません。

それが実現するためには、少なくとも脳は、「ふくよかで丸っぽい」ものを感受したとき「保護してあげたい」という感情を生じさせるような神経配線を備えていなければならない。

さらに加えるならば、幼児の、「ふくよかで丸っぽい」以外の特徴にも、「保護してあげたい」という心理を感じるような脳内神経配線を備えておくことは、遺伝子の増殖にとって有利なことである。そして、そういった特徴として「相対的に大きな目」、「相対的に小さな口元」、「ぎこちない動き」などがある。(200〜201ページより)

こうした特性を持った私たちホモサピエンスの脳の配線は、実際の幼児以外の対象に対しても誤作動するもの。

そのため「ふくよかで丸っぽい」ものや、パンダ(成獣でも、ふくよかで丸っぽく、相対的に大きな目、相対的に小さな口元、ぎこちない動き、といった特徴を兼ね備えている)などに「かわいい」という感情を湧き立たせるということです。(199ページより)

「ふくよかさ」「丸っぽい」

では、質問の中心をなしていた「モフモフ」についてはどうでしょう? この点について著者は、先述した「幼児に備わっている特徴をかわいいと感じ、幼児を保護する個体の遺伝子が増えていく」(だから、そういった個体の子孫であり、そういう脳を設計する遺伝子を受け継いでいる私たちは、ふくよかで丸っぽい、比較的小さなものをかわいいと感じる)ということを踏まえたうで、次のような2種の仮説的答えを提示しています。

仮説①

一般的に、というか、現実の世界の中では、モフモフしているものは、「ふくよかさ」とか「丸っぽい」といった性質をもつ場合が多いのではないだろうか。哺乳類の子どもや、鳥類のヒナは、毛皮や羽毛でモフモフしていて、丸っぽい。モフモフすると大抵は、丸っぽくなるものだ。(203ページより)

つまりモフモフは、ヒトの幼児の体に触ったり、頬ずりしたときの「ふくよかさ」の感覚を、あるいはそれ以上の「ふくよかさ」の感覚を与えてくれるのではないかということ。

仮説②

毛皮のようにモフモフ感を与えてくれるものは、「傷つく」などの可能性が低いはずであり、生存・繁殖に有利であるため、快感を生じさせる。そういった快感を生じさせるものが「ふくよか」で「丸っぽい」ものにくっついたとき、カワイイ感は強められるのではないだろうか。(204ページより)

したがって、仮説①と②が混じり合った「仮説①+②」が、「モフモフがなぜかわいいか」に対する著者の最終的な仮説的答えだというわけです。(202ページより)

「親しい友人と会った時、とび跳ねたりするのはなぜか?」「赤ん坊に声をかけるとき声が高くなるのはなぜか」など、興味深いトピックス満載。肩の力がほどよく抜けた文体も魅力的なので、気軽に楽しめるのではないかと思います。

Source: 新潮新書

メディアジーン lifehacker
2024年3月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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