『シン・日本の経営 悲観バイアスを排す』ウリケ・シェーデ著

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シン・日本の経営

『シン・日本の経営』

著者
ウリケ・シェーデ [著]/渡部典子 [訳]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784296118779
発売日
2024/03/12
価格
1,210円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『シン・日本の経営 悲観バイアスを排す』ウリケ・シェーデ著

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

「失われた30年」を疑問視

 「失われた30年」を経て、日本経済は人口減少も加わり、ますます衰退するのではないかとの悲観的見通しが支配的だ。その衰退の大きな原因の一つは、本来改革の先頭に立ち、経済成長をリードすべき企業が萎縮(いしゅく)したまま変われないことにあるということが定説のように語られている。だが、このような悲観論は現実の変化を反映しているのかとの疑問を呈するのが本書である。

 著者は時間を要したもののかなりの数の日本企業が世間で言われるよりはるかに力強くよみがえりつつあると「日本企業衰退説」を否定する。日本の優れた企業は、フォロワーからキャッチアップされて収益面で旨味(うまみ)が失われた領域を、海外生産や外注へ大胆に移している。そして、現在でも国全体として世界NO1と評価される、複雑で精度の高いものを作る能力を活(い)かし、他国が容易には追随出来ない素材、生産機械、部品分野等に注力し、加えて事業の再編成によって企業改革に成功していると語る。

 さらにその視点がユニークなのは、今までのいわゆる「失われた30年」は停滞ではなく経済や経営の質的転換を図る際に社会の安定とのバランスを取るために必要な時間であったと評価をしていることである。著者は、日本の文化は米国流の柔軟でスピード感が重視される「ルーズ」(何でもあり)なものではない。スピード感には欠けるが確実に関係者の合意を取り付けながら実績を積み上げていく「タイト」な文化に日本は根ざしている。だから時間をかけるやり方を選択したのだとまで踏み込む。シリコンバレー流のビジネスモデルは米国の文化から生まれたものなので日本企業が単純に倣ってもうまく行かない。だから日本は技能派力士のように得意技を磨けという。これらの主張に対しては異論も多いだろう。

 しかし、本書は日本賛美の本ではない。規制が多く改革が遅い企業がまだ多いとも批判する。在住9年以上の経験を通じ日本の実情も知った上でこの30年の日本企業の行動を分析した著者の指摘は示唆に富む。渡部典子訳。(日経プレミアシリーズ、1210円)

読売新聞
2024年5月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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