「あのときの私にしか描けない物語だった」/ 映画「トラペジウム」 原作・高山一実インタビュー

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トラペジウム

『トラペジウム』

著者
高山 一実 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041026441
発売日
2020/04/24
価格
748円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「あのときの私にしか描けない物語だった」/ 映画「トラペジウム」 原作・高山一実インタビュー

[文] カドブン

乃木坂46、1期生の高山一実が、一心不乱にアイドルを目指す女子高生を描いた小説『トラペジウム』(KADOKAWA)。2016年から2018年にかけて雑誌『ダ・ヴィンチ』に連載され、2018年に単行本化、大きな話題となった本作が、アニメーション映画となって公開される。今年2月に上梓した絵本『がっぴちゃん』(KADOKAWA)にも注目が集まり、作家としての歩みを進める高山は、自身の経験や葛藤も込めた思い入れ深いデビュー作の新たな姿を、どのような想いで見つめているのだろう。

文/河内文博(アンチェイン)

■「アニメーションの魅力と原作を振り返って“いま”想うこと」/
映画『トラペジウム』 原作・高山一実インタビュー

「あのときの私にしか描けない物語だった」/ 映画「トラペジウム」 原作・高...
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■「東西南北」が歌って踊るシーンが大好き!

――本作は「東西南北の美少女を集めてアイドルグループを結成する」という野望を持つ女子高生・東ゆうが、様々な困難にぶつかりながらも夢を追う姿を描いた物語です。映画化されると決まったときはどんなお気持ちでしたか。

高山:最初にオファーをいただいたのは、単行本の発売から間もない頃でした。当時は自分が書いた物語を手に取ってもらえるだけでうれしかったので、さらにこんなに大きなお話までいただけて光栄でした。だからこそ、小説を読むのが苦手な方にはぜひアニメから入っていただいたら、きっと作品をいろんな角度で楽しめると思うんです。

――声優の皆さんも本当に素晴らしいなと感じたのですが、とくに主人公の東ゆう役を演じられた、結川あさきさんのお芝居はいかがでしたか。

高山:私はあまり作り手が熱くなると受け手が冷めてしまうと思っていて、演技は控えめなほうが好きですし、小説でも自分の強い想いはできるだけ薄めて書くようにしていたんです。アフレコ現場にお邪魔したのですが、結川さんもそういうスタンスの声優さんだったことで、すごくいいバランスで演じていただきありがたかったです。本作ではゆうが歌うシーンがあるのですが、結川さんがゆうに寄り添い、深いところまで歌声を通して表現されていて、うれしい瞬間でした。

「あのときの私にしか描けない物語だった」/ 映画「トラペジウム」 原作・高...
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――アイドルグループ=「東西南北」がアニメとして踊り歌っている姿は、原作ファンにとってもうれしいシーンでした。

高山:実際、小説を書いたあとに「彼女たちがアイドルになったあとのシーンをもう少し見たかった」という感想をいただいたんです。そこをアニメで補っていただけたことに感謝ですし、「東西南北」が歌って踊るシーンも大好きです。一方で、小説を書いているときも彼女たちがアイドルになる後半の展開で自分からキャラクターが離れていく寂しさに似た感覚があったのですが、このシーンを観ているときもどこか似た心境でした。

「あのときの私にしか描けない物語だった」/ 映画「トラペジウム」 原作・高...
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■“不等辺四辺形”な4人

――高山さんがどれだけキャラクターを愛おしく思っているかが伝わります。本作は、アイドルを目指す女の子の作品のようでありながら、「アイドルになりたくない」と思っている女の子が出てくるのがおもしろいですよね。

高山:私は本当にアイドルが好きだったので、自分がアイドルになるまでは「女の子はみんなアイドルになりたいものだ」と勝手に思い込んでいたんです(笑)。例えば、好みはあってもアイドル自体が嫌いな人はいないだろうと……。でも、あるバラエティのロケ番組に出演した際、2人組のかわいい女の子に話し掛けたとき、1人はアイドル好きな子だったのですが、もう一人の子はアイドルが嫌いな子で(笑)。マイクを向けても、「私、アイドル好きじゃないから」と友だちに言ったんですよね。そのときにすごく驚きまして。そういう自分の「アイドル観」を変えるようなことが続いたことがあったんです。

――そういう経験を小説に反映されたんですね。ところで、「東西南北」は4人グループですが、それぞれのキャラクターの個性が魅力的ですよね。これは当時、どのような構想で考えたキャラなのでしょうか。

高山:彼女たちは、いろいろな壁にぶつかって大変な思いをするので、この4人はタイトル通り“トラペジウム(不等辺四辺形)”なんです。きれいな四角じゃないのは、際立った個性があるから。その魅力をあらためて感じました。

「あのときの私にしか描けない物語だった」/ 映画「トラペジウム」 原作・高...
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――なかでも、アクの強いキャラクターでつい見守りたくなるキャラクターが主人公のゆうだと思うのですが、高山さんの中で彼女はどんな存在になっていますか。

高山:客観的に見てアイドルが好きという想いは人一倍な女の子なんですが、アニメ版のゆうは、毒要素がマイルドになっていて共感力があるなと。そもそも私自身が投影されているキャラクターでもあるので、小説はもうちょっとクセが強い感じでヘンなヤツなんですよね(笑)。

――「東西南北」の他の3人についてもお伺いします。まずは“西の星”のくるみはどのように生まれたのでしょう。

高山:1枚の写真だけですごくバズって多くの方に知られるようになることってありますよね。例えば、橋本環奈さんは今では誰もが知る女優さんですが、当時1枚の写真だけでバズるのが衝撃的で……。そうしたビジュアルが強いというキャラを作ろうと考えたのがくるみです。アニメでは羊宮妃那さんの声がめちゃくちゃかわいくて、キャラクターとして華があって驚きました。

――“南の星”蘭子はお蝶夫人に憧れているお嬢様という、これまた個性的な少女です。

高山:実は蘭子は原作を書いているときから一番好きなキャラクターなんです。アニメで観て感じたのは、クセが強いところはあるけど性格はいいんですよね。とくに、周りの心を繋ぎとめる力を持っているので、彼女がいなかったら4人は早々にバラバラになっていたと思うんです。そんな性格のいい蘭子がダントツで魅力的に見えてしまわないよう、キャラクターデザインのりおさんに調整していただいたところもあります(笑)。

――“北の星”美嘉は、ボランティア活動に勤しむ高校1年生です。彼女はゆうの過去を知る存在として登場する4人目の少女ですね。

高山:アニメ版の美嘉は、本当に素直ないい子に見えました。ゆうは邪念があってのボランティア活動だけど、美嘉はそういう想いがなくて必死な子なんです。なので、ゆうが美嘉に対してキツい一言を言っても「これはゆうが悪いな」とちゃんと思えました(笑)。また、美嘉は小説だともっと暗いんですが、その要素は残しつつも、素敵なキャラにしていただいたなと思います。

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■「アイドル」は熱のある場を生み出す存在

――高山さんは本作の主人公・東ゆう同様に、アイドルに憧れ、アイドルになり、そしてアイドルの物語を紡がれたわけですが、あらためて「アイドル」とはどんな存在だと思われますか。

高山:私は、ステージと客席のエネルギーがぶつかり合う場を提供する存在がアイドルなのかなと思います。いまはバーチャルアイドルさんもいるし、姿はVRで画面越しだけど、応援してもらう側と応援する側が生み出す、あの空間の熱量はリアルでも仮想現実でも同じだと思うんです。私自身、アイドルという職業に就かないと見えないものも、得られないものもたくさんあったし、やっぱり、いい職業だなと思います。

――アイドルに憧れていたときと、実際になってからで、ギャップを感じたことはありませんか。

高山:憧れていた頃は、「どんなにツラいことがあってもアイドルになりたい!」と思っていたんです。でも、実際になることができたら幸せなことばかりでした。むしろ、なってからのほうがアイドルってめちゃくちゃいい職業だなと思えた。アイドルを目指している子にはそれを心から伝えたいし、一緒に活動してきたメンバーにも、そう思わせてくれてありがとうという気持ちがずっとあります。

■書きたかったものを目の当たりにした日

――『トラペジウム』には、高山さんのアイドルへの熱量と同じくらい、小説や本への熱量が込められていると思います。印象に残っている、本にまつわる体験談を教えていただけますか。

高山:正直『トラペジウム』は、あのときの私、ただの読書好きだった私にしか書けない部分がありました。だから、いまは少し遠くにある感じもします。ただ、体験で言うと、私が2月に絵本を出版したんですね。その絵本を地元(千葉)の母校で子どもたちに読み聞かせする機会をいただいて、会いに行ってみたら、想像のはるか上を行くくらいかわいくて愛おしい子どもたちで。世の中にはこんなに素敵な子どもたちがいるんだと思ったら、頑張ろうと思えたんです。血縁関係もまったくないのにそういう気持ちにさせてくれる子どもたちや先生方と触れ合えた素敵な時間でした。さらに最近の学校給食の工夫を教えてくださったり、絵本のおかげで新しいことを知れました。

――ご自身の絵本が、素敵な縁を運んできてくれたんですね。

高山:そうですね。小学生だけでなく中学生にも、とお声掛けをいただいていて、最初は絵本なんて子どもっぽいもの、中学生は聞きたがらないだろうと勝手に思っていたんです。でも「うちの学校は違います」と言い続けてくださって、行ってみたんですね。そして実際に読み聞かせをしてみたら、最後まで誰一人しゃべることもなく、しっかり聞いてくれて。いろいろ話す時間もあって、卒業式に歌う曲の話題になったら、生徒たちが「せっかくだから歌います」と、私一人にむけてみんなが歌を歌ってくれたんです。それが最近で一番感動した日。“私、小説でこういうことを書きたかったんだよな”ってあらためて発見があったし、すごく『トラペジウム』と重なる光景でした。まったく他意のない学生の皆さんのがむしゃらさが、こんなにも眩しいんだなって感動しました。

――それは忘れられない体験ですね。ご自分のやってきたことが繋がった瞬間といいますか。では作家としても、さらに挑戦を続けたいというお気持ちでしょうか。

高山:そうですね。その気持ちはますます強くなりました。けれど、とくに絵本は、一冊書いたくらいじゃ「絵本、書きました!」と言えないと思うので、3冊くらいはシリーズで出したいです。それも含めて、いまは小説を書いたときとは違う感覚ではありますが、言葉や本と私なりのペースで向き合い続けたいなと思っています。

KADOKAWA カドブン
2024年05月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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