『ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』
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『ウイルスはそこにいる』
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『ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』古瀬祐気著/『ウイルスはそこにいる』宮坂昌之/定岡知彦著
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
感染症の恐怖 胸に刻み
現在はエボラウイルス病と呼ばれるアフリカの恐ろしい感染症のことを、「エボラ出血熱」という名称で広く一般に知らしめたのは、一九九四年刊の『ホット・ゾーン』という海外ノンフィクションだった。緻(ち)密(みつ)な交通網に覆われた20世紀の世界では、遠く離れた地域の感染症であっても他人事ではなく、対処を誤ればたちまち地球規模の公衆衛生と医療の危機になってしまうのだということを一撃で理解させてくれた強烈な本だった。そしてこの本が読者に植え付けた潜在的な恐怖は、21世紀の新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより、現実の社会のなかではっきりと見えるようになった。
そんなことをしみじみと思ったのは、『ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』が、まさにそのエボラウイルスが大流行している二〇一四年の西アフリカ・リベリアに、著者がWHOの感染症コンサルタントとして派遣されるところから始まり、近年の新型コロナウイルス対策を振り返ってしめくくられるからだ。著者はスーパーマンではない。感染症専門の医者であり研究者だ。それでも――いや、だからこそSOSがあればどこへだって(パンデミックで地元の医療は崩壊し人手も機材も薬も全てが足りず、道ばたに死体が転がっているところでも)乗り込んでゆく。そんな厳しい現場の体験談の一方で、著者の青雲の志と青春の思い出や、サンタクロースの感染症シミュレーションなどユニークな研究のエピソードが楽しい。
もう一冊、こちらもハンディな新書ながら、読み通せば「ウイルスとは何か」から「医学でウイルスを克服できるのか」まで理解できる『ウイルスはそこにいる』。免疫学者とウイルス学者のバディ先生による、贅(ぜい)沢(たく)なウイルス学の基礎講義だ。新型コロナウイルスとそのワクチンについても知識を更新しましょう。(中公新書ラクレ、924円/講談社現代新書、1012円)