「とにかく死ぬ気でやれ」歌舞伎の道を再び歩み始めた中村種之助が奮起した叱咤激励

そして、僕たちは舞台に立っている。

更新

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累計950万部を突破した畠中恵さんの人気ファンタジー時代小説「しゃばけ」シリーズ! 20周年を迎えた2021年7月から、シリーズ各巻が花形歌舞伎俳優の朗読で続々とAudibleでオーディオブック化されています。第19弾である『いちねんかん』の朗読を担当されたのは、歌舞伎界で変幻自在に役を演じ分ける中村種之助丈。自発的に「踊りの会」を立ち上げる歌舞伎への意欲と先輩たちへの深い憧れを語ります。

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歌舞伎はチームプレー。朗読は、自分自身とのキャッチボール。

 僕は考えすぎるタイプで。
 台詞せりふ回しでも所作しょさでも、細かく考えたからと言って、お客様にそれが伝わるわけではないとさとされます。その通り、どれほど先輩方の教えを熟考したところで、本番の演技は、ひとりでするわけではありません。
 歌舞伎は、お客様が劇場にいらして成立する演劇です。そのために、客席の温度、雰囲気をつかみ、キャッチボールをしながら、たとえば拍手をいただけたら、次の台詞が聴こえるように少し間を持つなど、お客様の反応と共に演じます。同時に、舞台上では、相手の役者さんの息を摑み、踊りや台詞で息を合わせていきます。壮大なチームプレーです。
 しかし、朗読の場合は僕一人です。自分自身とキャッチボールをするしかありません。全てをやりたいようにできる利点もありますが、誰も助けてくれないので、自分でコントロールしなければなりません。実際、すごく雑なボールを投げてしまったことがありまして。翌日、録音を聴いたら、テンションを上げておいて欲しかったのに、フォークボールのように落ちてしまっていて…。そのまま読み進められず、り直させていただきました。「うーん困るよ、自分」って感じ(苦笑)。台本に台詞のテンションも書き込んでいたのですが、流れに乗ってしまうと制御できなくなるのか、朗読した他の皆さんは、そういう感じはなかったのかな。