「中途半端に大学に進学しないで」俳優・前川優希が明かす、役者への夢を後押しした母親の存在

そして、僕たちは舞台に立っている。

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本番の舞台の有り様に見当が付かないほど、経験値を超えていたと語る前作「シャイニングモンスター」。
今作「シャイニングモンスター2ndstepてんげんつう」でも引き続き座長を務め、主役の一太郎を演じる前川優希さんの覚悟と責任とは。
そして、役者になることを後押ししてくれた母の存在について、演劇界の若きエースが語り尽くす。

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気を抜くことができない舞台「シャイニングモンスター」

 実は僕、ずっと不安なんです。「シャイニングモンスター」で主演の若だんな・一太郎いちたろう役のお話をいただいた時から。「私で、いいんですか」と。
 一太郎は病弱で、きっと華奢ですよね。けど、僕は公式プロフィールにもあるように身長178センチで、もしかしたら今はもっと高いかも。身体も屈強くっきょう、体調を崩すこともほとんどありません。声も大きく、よく笑う、何より元気。一太郎と真逆じゃないですか! けど、それでも声をかけてくださった皆さまには感謝しかありませんが、不安は不安です…。
 不安があるからこそ、原作を読み込み、読み手として感じた一太郎の人となりから、役者・前川優希が僕自身と重ね合わせたい部分を抽出して、すべての僕の所作に一太郎をかもし出せるような準備はしました。
 それでもあの時、初演があった2021年3月ですね。本番前のお稽古が終わった時点では、演出の錦織一清にしきおりかずきよさん、舞台関係者・カンパニーの皆で作り上げた土台の上にある僕の足下がはっきり見えなくて、恐怖に似た感覚を覚えました。
 一般的に舞台は本番前に一ヶ月くらいお稽古をして、ある程度自分たちで土台を作って初日を迎えます。お客さまの前でトラブルが起きたり、敢えてアドリブを効かせることでお稽古とは違う間合いの公演になることもありますし、僕はそういう舞台は素晴らしいと思っているのですが、「シャイニングモンスター」はお稽古が終わった時点で、本番の舞台の有り様に見当が付かなかったというか…。アドリブにしても、間合いにしても、本番の舞台は、僕の経験値を超えてしまう気がしてしまったんですね。

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 けど、初演本番を通じて、面白い舞台にするためには、自分だけではなくて、仮に僕と方法論が違っても他のキャストの芝居を受け入れて、消化して、舞台に立つのが大切だと学びました。お客さまを笑わせるお芝居、キャストがキャストを笑わせるお芝居、その方法論がこのカンパニーには無限にあるんです。そういう舞台なんだと認識できました。だから、皆に置いていかれないためにも、気を抜くことができません。今回も覚悟しています。

役者としての覚悟と責任

 錦織さんの演出は、キャストの気持ちを受け入れてくださって、尊重してくださるんです。僕の希望を言うと、「わかった。演出面で音響や照明でそうできるようにサポートしていくから、やってみよう」と仰ってくださることが多くて。もし、できそうにない無理なことを伝えてしまったとしても、できないということを言葉を尽くして説明してくださると思います。だからこそ、僕のプライドを賭けて、下手な表現はできませんし、責任も重大です。だからかな、あの日々がまた訪れると思うと、楽しみは楽しみですが、自分がちゃんと生きていないと置いて行かれるというか…。気合いを入れなきゃならない作品で、決して一筋縄ではいかない。だから今は、「よっしゃ! あの季節が来たぞ!」という感じですかね。
 そして、僕たちは、お客さまに最高のものを届けることを第一義に考えなければなりません。上演時間の中で、お腹を抱えるほど笑っていただき、明日への活力になる、そういう幸せな時間をお届けすることが何より大事です。だから、役に対する僕の解釈を理解していただけないことを恐れてはいけないし、あらゆる声をきちんと受け入れて、それでも自信を失わないくらいの覚悟と責任が、役者には必要だと思っています。それは演劇だけではなく、最終的には自分の手から離れて評価されざるを得ない創作に携わっている人すべてに通じることかもしれませんね。
「シャイニングモンスター」では座長を務めさせていただいていますが、座長であろうがなかろうが、僕が心がけていることがあります。先日まで、発達障害というか精神疾患の人が登場する劇に出演していたのですが、お客さまの中には、当事者の方も、身近に苦しんでいる人がいる人もいるかもしれません。そういう方たちがこの舞台を観た時、不快な気持ちになるようなことがあっては絶対にいけないので、そういう表現はしないように、そう受け取られないように、気を付けています。それは演劇だけではなく、表現をする上で最低限のことだと思っています。